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お試し期間二週間はあっという間に過ぎた。
その間にお互いの生活リズムを掴んできた二人は、最低限のルールを決めた。
「風呂は覗かないこと!」
喉もと過ぎれば何とやら。
野代は気持ちを知られたことで開き直り、何かというと新田に触ったり抱きしめたり、というセクハラまがいのこともするようになっていた。
とりあえず不快感こそ抱きはしなかったが、新田としてはあまり行き過ぎるスキンシップは少し考え物だと思い、ルールを決める時に真っ先にそう言った。
「ええ? いいじゃん、一緒に入ろうよー」
「この、エロ親父。また鼻血吹くんだから、だめ!」
「もう吹かないよ。だから、ね?」
「いーやーだ。とにかく風呂を覗くのは絶対禁止! おまえ、あのあと風呂掃除すんの大変だったんだぞ!」
「じゃあ掃除手伝うし」
「そういう問題じゃなーい!」
お試し最終日。
土曜日の夜、神原も呼んでのささやかな宴の中、じゃれあう二人に本日のお客さまであるところの神原は呆れ返っていた。
「なんだよなー。らぶらぶじゃん、おまえら」
新田の作ったカラアゲなんぞを摘みながら、神原が言うと。
「どこが!」
「だろお?」
二人の返事は重なった。
「新田ー、冷たいー」
「うるさい、ばか野代。だあ、もう! ビールこぼすなよお!」
新田は意外に掃除好きだそうで、平日時間がない分まとめて土日はしっかり掃除する。
勿論その時はこの広い家中を掃除機かけて回るので、結構な運動量になるということを知った野代も、雑巾がけなどの手伝いをトレーニングとしてやっている。
「結局さー、新田ってユキのことスキなわけ?」
どんどん仲良くなっていく二人に少しのヤキモチを含めて神原が問う。
「嫌いだ!」
「スキだよねー」
またしても二人のセリフが重なった。
「ひどおい。新田ちゃん、俺のこと好きってゆったもーん。あれ、嘘だったの?」
「えーい、気色悪い言い方すんな、ばか! そうやって、部屋を汚しまくるおまえなんか、嫌いだよ」
「じゃあ綺麗にしたら好き?」
「これ、後片付け全部やってくれたら好き」
「わかった。やる」
少し酔っているらしい野代は、すっくと立ち上がると食べ終わった皿を流しへと持ってゆき、ちゃかちゃかと洗い始めた。
「新田」
「何?」
「おまえ、すげえいい嫁さんになれるな」
神原が言うと、新田は少し眉を顰めたが、
「ありがとう。操作方法、伝授してやろうか?」
しっかり睨みながら余裕で返す。
「遠慮しときます。ま、おまえらならうまくやっていけるんじゃないか? 俺としてはちょっと安心」
「安心って?」
「ユキがね、おまえのこと好きってのは半年くらい前に相談されてたんだ。でも、おまえってほら、あんまし人寄せ付けないタイプだろ? 折角いい感じで仲良くなってんのに、もしユキがおまえに恋愛感情持ってるってこと知ったら、おまえの人間嫌いに拍車がかかるんじゃないかなーって、ちょっと心配だった」
まさか告白するとは思っていなかった神原は、野代から事の顛末を聞かされてかなり驚いたのだ。
けれど、結果がこんな風にいい関係になっていることに、誰よりも安心しているのは神原である。
二人を引き合わせたのは自分だし、同居することになったきっかけも自分。
だからこそ、こうしてカップルとまではいかなくても、それなりに仲良くいい関係を持つことができた二人を祝福したい気分だった。
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