ONLY LOVE

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 野代雪秀十七歳。  丁度一年前の春この県立高校に入学し、中学時代から“ラガーマンとして花園を目指す!”という夢を叶える為にしっかりとラグビー部に入部し、そのおかげで運命的な出逢いを果たすことができたのである。  運命的な出逢い。  そうとしか言い様がない。  何しろこんなにも可愛い、可愛い新田芳裕という最愛の人間に出逢ってしまったのだ。  しかも、一年の時は別のクラスで、更に全然違う別の部活をしている新田に、である。  そしてそれは新田と同じ中学出身であり、野代と同じラガーマンである神原洋介という野代にとってはまるでキューピッドのような存在があったからこそ、なのである。  野代がラグビー部に入部していなければ、ひょっとすると出逢うことなどできなかったかもしれない。  そう思うと高校に入ったらラグビー部に入る、という希望を抱いたのは、これは運命であると言って過言ではない。  と、野代は信じていた。  おまけにこの春からは同じクラスになったおかげで、新田との仲は更に親密度を増し(野代の中での比、である)、今や毎日毎日顔を見つめることのできる神原を挟んだ一個隣同士という間近にまで迫ることができたのだ。  ああ、この幸せを神に感謝しないではいられようか!   親しくなれた今は、こうして自分たちの間にいる神原が今ひとつ邪魔者に思えなくもないが、何と言ってもキューピッドである。  これは邪険には扱えない。  故にこうして三人仲良く行動を共にしているのであった。  そしてまたしてもキューピッド神原の本領発揮。  瓢箪から駒とはこのこと。  神原が言った言葉から出た二人の同居話は当人たちの間ではすっかり現実味を帯び始めていたのである。 「親の諒解は取ったぞ」  同居話が出た翌日には、既に野代はそんな発言を持って新田におはようの挨拶をした。 「おまえ、気が早過ぎ」  新田が呆れ返ったが、そんなことを気にする野代ではない。  不敵に笑うと、 「善は急げだ!」  言い切ってふんぞり返る。 「善、かよお? ……まあうちはさ、構わないよ。実際部屋は腐るほど余ってるし、自分で掃除するならいつでも勝手に来てくれていいんだけどさ」 「じゃあ今日から!」 「やだ」 「何で?」 「野代、目が血走ってるもん。怖い」  新田はそう言って、神原の影に隠れた。 「だよなー。ユキ、おまえ欲望が全部顔に出てる。そのまま新田んちに行ったら、おまえは新田を押し倒しかねない」 「だろお? 俺、自分かわいいもん。野獣野代のエサになんかなりたくねー」 「なんだとお! 俺は紳士だ! どこをどう見たら野獣に見えるってんだ?」 「全部!」  新田と神原二人の声が重なる。  野代はがっくりと項垂れた。  いくらなんでもステレオでそんなこと言い切らなくてもいいじゃないか。  そんな脱力しきった野代に二人は笑い転げた。 「ははは。冗談、冗談。違うよ、野代」  二人より2サイズ大きい巨体を小さくし、野代は情けないことこの上ない表情で上目遣いに二人を見上げており、そんな野代の額に軽くデコピンなんぞをしながら新田が言う。 「俺さ、おまえと友達やめるつもりないんだよ」  笑いを抑えているせいか目尻にちょっとした涙を浮かべながらも、新田は野代の目をきちんと見た。 「完全に同居を決めたりしてさ、何も考えないで一緒に暮らしたりなんかしたら絶対友達関係って崩れそうじゃん? そうなるのは俺としては避けたいわけ」 「そんな、一緒に暮らす前から喧嘩すること前提で考えるのかよ?」  デコピンされた額を擦りながら、野代がむくれる。 「当然だろ。一緒に暮らすってちゃんと決めるなら、きちんと考えるべきだ。いろいろさ、やらなきゃいけないことはあるだろ? そういう手続きっぽいこといろいろあるのにそれを全部済ませてみなよ。実際喧嘩してさ、やっぱり同居止めますって簡単に実家に戻れるのか? 二、三日一緒に過す、なんて修学旅行みたいに考えるわけにはいかない」  冷静に言われ、野代は黙り込んだ。  確かにそうだ。  あの手狭な家で自分が出て行くと決めたなら、きっと戻る場所なんてそう簡単にはできるはずがない。  それに、生活するということはお金も絡んでくるわけで。 「でもね、野代。俺はおまえと一緒に暮らすって話、このまま立ち消えにするつもりないよ」  新田の笑顔。  そう、野代の一番好きな新田の表情だ。  くるりと大きな目を少し細めて。  ぷるんとした口唇がふにと伸びて。  で、その横にある頬には、本当に小さな窪み、即ち笑窪ってヤツが出てくるのだ。  本人は子供っぽくて嫌だと言うけれど、野代には堪らなく魅力的に思える。  そんな笑顔を見せられた野代は、見惚れながら続きを聞いた。
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