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「だからさ、とりあえず……そうだね、二週間くらい、試しに一緒に暮らすってのはどうかな? その間にお互いの生活のリズムだってわかるし、そうなったらルールとかだって決められるだろう? もしもその二週間でお互いに一緒にいることに苦痛を感じたらさ、その時は仕方ないからなかったことにしてもいいわけだしさ。で、それは契約として、だから別に喧嘩ってわけじゃないし、二度と顔も見たくないなんて状態にはまずならないと思うんだ」
野代は嬉しくて仕方なかった。
昨日の今日でそんな風に言ってくれるってことはそれだけ考えてくれたってこと。
野代との関係を壊したくない、ということを真剣に考えてくれたってこと。
それでも実際は一緒に暮らすことに前向きであるってこと!
「だめ、かな?」
少しだけ不安そうな新田の表情は、野代を完全にノックアウトしていた。
ああ、やっぱり新田との出会いは運命だ。
目の前にいるこの可愛い可愛い新田というヤツは、自分と同じ男だって要素を差し引いてもまだ有り余るほどに魅力に溢れているのだ。
野代はそんな感情をどこにぶつけるべきかほんの一瞬だけ悩み、結局本人にぶつけることに決めた。
「うあっ、何すんだ、野代っ!」
野代は新田の肩に手を回し、ぎゅうっと抱きしめたのである。
「だめなわけないだろ! 一緒に暮らそう、新田! 愛してるぞ!」
思わず出てくる自分の感情のままの言葉。
しかしながら新田は、
「はいはいはいはいはい、わかったから放せ、このばか力!」
当然本気で受け取るわけもなく、野代の腕の中でもがいた。
「いつから? ね、新田、俺いつからおまえんち行っていい?」
暴れる新田を解放し、野代は目を輝かせて問う。
「……やっぱやめよっかなー」
ところが新田は大きく息を吐くと、野代を睨みつけながらそんな風ににやりと笑う。
「ええっ? そんな、新田あああ」
「やめといたら、新田? ユキ、おまえのこと絞め殺しかけたぞ、今」
「だしょー? 俺、なんか猛獣を家に入れるような気がして、不安になってきた」
「そうそう。ユキは猛禽類だからな。エサになるのが嫌ならやめておく方が賢明だと思うぞ」
「神原も思う?」
またしても巨体を縮めて情けなくへたり込む野代に、二人は冷ややかに冗談を続けた。
「ひーどーいー。俺は人間だあー」
「どうかなあ? エサ代、どんくらいかかると思う?」
「そりゃ、毎日牛二頭は必要だろうからなあ。新田、おまえが喰われない為にはそれだけじゃあ収まらないかもしれないぞ」
「そっかあ。じゃあ俺牧場でも開こうか?」
「こらこらこらこらこら!」
放っておけば完全に猛獣にされてしまいかねない野代は、神原にだけごん、と一つ拳をくれてやり、むっくりと立ち上がった。
「痛てーな、ユキ。檻に入れられたいのか、おまえは?」
「ばかやろう。人をトラのように扱うな!」
「野代、がおーってゆって」
笑いながら新田がかわいらしく言い、ブレザーの裾を引っ張った。
「え? あ、がおー!」
かわいい新田の声には逆らえない野代は、素直に答える。
「やっぱトラよかライオンっぽくない? 野代の髪、黄色いしー」
「新田あああ。そんなに俺と暮らすのヤなのかよお?」
野代は新田の前にひざまづいた。
まるっきり、ご主人様の前に小さくなっているライオンである。
その姿がおかしくて、新田はくすくすと笑いながら野代の頭を撫でると、
「イイコにしてたら飼ってあげる。あんましお肉はあげられないけど、俺の手料理を喰わしてやるよ」
と言って、ついでに「お手」と付け加えた。
「わん」
にっこり笑って右手を出す。
ああ、ああ、どんなに情けなくてもいい、愛する新田のためなら犬にでも猫にでも、ライオンにでもなろうじゃないか!
野代が心中叫んでいることも、神原だけはお見通し。
おもしろがった新田が野代にいろんな芸を仕込む様子を、くすくすと笑いながら神原は見守っていた。
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