ONLY LOVE

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 かくして二人のお試し同居がスタートした。  とりあえずのお試し期間ということで、野代が大きなボストンバッグを一つ抱えて新田家にやってきたのは、話が出た日の週末であった。 「いつ見ても、デカいよなー新田んちって」  瓦屋根の付いたしっかりとした門構え。  そこから入って五メートル程石畳を歩くと漸く玄関口へと辿り着く。  右を見れば車は軽く五台は置けるだろう駐車場に自転車がぽつんと一台と、誰も使うことのないワゴン車が一台。  そして左を見れば竹細工の生垣があり、その向こうには石灯籠が悠然と鎮座している小規模ながらも立派な日本庭園が続くのである。  季節ごとに代々お世話になっている職人がやってきてその手入れをするらしく、この春鮮やかな花々で飾られたばかりであるその庭は今のところ、美しく整っていた。  が、もう少しすれば、見る者も触る者もいない現在の新田家故に、恐らく見るも無残な荒地と化すことは必至なのではあるが。 「ただいまー」  何度も遊びに来ていた新田家なので、野代としても慣れたもの。  週末の簡単な引っ越しからのドタバタを過ごした翌日、月曜日、部活を終えて待ち合わせをして同じ家に帰る、という何とも幸せなひと時を感じながら家に着いた野代は、言うなり自分の部屋にずかずかと入ってゆく。  何も隣に来なくても、という新田の言葉を大無視して、数ある部屋の中でも壁一つ隔てた隣の部屋、しかも小さ目の六畳洋間に自室を決めたのである。  新田家は旧家らしく平屋造りである。  間取りとしては、玄関入って左すぐの十畳二つをふすまで隔てた大部屋と、それぞれに付属の小さな部屋、その奥には六畳の物置と呼ばれる部屋が二つと両親の寝室がこれまた十畳。  更に渡り廊下を隔てた茶室と、八畳間が四部屋と台所などが総て揃った離れまでがある。  そして玄関右にある八畳と六畳の和室は客間、そのまた奥には数年前に改築したという水周り、LDK十二畳、八畳と六畳がそれぞれ一つずつ、洋間が並んだ区画となる。  新田と野代の部屋はその二続きの洋間八畳と六畳となっており、はっきり言って、玄関より左側の未改築部分や、茶室や離れ等の別棟へは殆ど足を踏み入れることさえない状態なのであった。 「だってさ、あっちの庭には先祖代々のお墓があるし、茶室なんか俺子供の時ばあちゃんがお茶会やった時以来入ったことねーもん。ばあちゃん死んでからは、かーちゃんも年末の大掃除しかしてねーってゆってたし」  さすがは田舎のもと大地主。  山は税金やらなんやらで既に手放しているというが、これだけの家があるだけでも野代には驚きである。  確かに場所的には少し不便とも言える場所ではある。  しかしそこは交通手段自転車という武器のある野代には、通学距離が長ければ長いだけトレーニングにもなろうというもの。  今日もせっせと自転車をこいで新田と仲良く学校まで往復したのである。 「さて、と。どうする? 飯、何作ろうか?」  新田の嬉しい言葉に野代は、 「ああ、俺先に風呂入って来るわ。汗かいてっからさ」 と返す。  日曜日に食料関係を買い込み、その夜新田の作った手料理の数々に野代は感動して涙が出そうになったくらいであった。  今夜も期待して風呂へと向かう。  野代の来た週末は簡単ではあるが引っ越しのせいでバタバタしていたから、土日共新田の提案でリビングのコタツで寝た二人。  春とはいえ少し肌寒い日が続いているので風邪をひくかと心配したものの、そこは健康優良児二人である。  夜明けまでくだらないお喋りとテレビゲームで騒ぎ続けた挙句、二人でごろごろと寝て過した週末であった。  料理上手な新田が、いい嫁さんになるだろうなー、なんて妄想しながら野代が湯船でのんびりと浸っていると、 「湯加減どお? 俺も入っていいかな?」 と、思わず鼻血を吹きそうな声が外から聴こえてきた。
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