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「ピーマン、食える?」
「へ?」
「ピーマンの肉詰。そんで、コンソメスープと、野菜サラダ」
茫然と突っ立っている野代に、新田は平然と言って対面式のキッチンから今言った料理をダイニングテーブルへと運ぶ。
「ほら、見てないでちったー手伝え」
何も、なかったかのように。
野代は一瞬ほっとしたが、それと同時に虚しさも入り混じった複雑な感情が湧いてくるのを感じた。
「鼻血、さすがにもう止まっただろ」
なかったことに、されてしまったのだ。
野代にとって、あのみっともない告白が、それでも漸く自分の気持ちを伝えられたという事実であることには違いなく、それをこんな風に完全に無視されてしまったことに愕然とした。
確かに、あんな状態のあんな告白を真剣に受け止めろ、なんて言うのは押し付けでしかないだろう。
けれど、はっきりと断るなり、この家から追い出すなり、何らかの反応を見せてくれることくらい、して欲しいと思うのは自分勝手なのか?
この、感情はどうすればいい?
「新田」
「もう。手伝わないなら手伝わないでいいけど。とりあえず座りなよ。あんだけ血、吹いたんだしさ」
「新田」
「はい。ご飯これくらい?」
「新田、もういいよ」
「…………」
もう、だめだ。
野代はリビングを出た。
部屋にあるボストンを持って、この家を出よう。
このままこの家になんていられるわけがない。
そう思って歩き始めた野代に、
「待って!」
新田が叫んだ。
「出て、行くなよ……ここに、いてくれよ……」
その声が。あまりにも予想を反した言葉だったので野代は驚いて振り返った。
追って来た新田が、悲愴な顔で野代の腕を掴む。
「俺……」
「新田。さっきの俺の言葉、ちゃんと聞いてた?」
「聞いてたよ」
「じゃあ、俺がどういう気持ちでここにいるかわかるだろう?」
「…………」
新田は黙り込んだが、それでも野代を掴む手を放そうとはしない。
「答えられないんだろう? だったら、俺をここに置いておいちゃ、いけない」
その手を引き剥がそうとするが、新田は首を横に振った。
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