ONLY LOVE

9/11
前へ
/11ページ
次へ
「新田」 「やだ。俺……野代のこと、好きだよ。……勿論、おまえが俺を好きってのとは違うけどさ。でも、俺……このままおまえと一緒に暮らしたい」 「おまえ……」 「聞いて」  野代の言葉を遮るように新田が真剣な眼差しを向けた。 「俺、ね……友達ってあんましいないだろ? なんか、友達作るのが下手で、中学ん時もあんまし友達っていなかったんだ」  あまり積極的に人に話し掛けるタイプの人間ではない新田は、同じ中学出身の同級生は神原しかいないため、実際高校入学当時は誰とも殆ど喋らない様子だったことを野代は思い出した。  部活は中学時代から続けているテニス部に入ったが、それでも仲の良い友達らしき人物と一緒にいることもなかったようで、野代と親しくなるまでは大抵の時間を一人で過しているようだった。 「だから……野代がいなくなったら、俺……」 「神原がいるだろ」 「神原はおまえの連れじゃないか!」 「え? そうか?」 「そうだよ。俺、中学ん時だってあんまし仲良かったわけじゃない。ただ……うちの中学からは神原しかいないから、とりあえず一緒にいてくれただけで……だから……俺、野代と友達でいたい……」  新田はそう言うと、野代の腕を掴んだまま俯いた。  自分よりも頭一つ分小さな新田の旋毛が野代の目に入る。  今にも泣き出しそうな雰囲気の新田に、野代は一つ溜息を吐いた。  フられることは予想できていたことだった。  こんな形で告白することは予想だにしていなかったが、いずれ時が来て自分の気持ちを伝えたとしても、きっと新田がそれに答えてくれるはずなどないことは、ちゃんとわかっていた。  けれど、この展開は。 「新田」  目の前にある頭に、ぽんと手を載せた。 「俺、このままおまえへの気持ちって捨てられそうにない。それに、そばにいたらいつだっておまえのこと抱きしめたいとか、触りたいとか思ってしまう」  自分を見上げる新田の目。不安に少し揺らいでいるそれは、けれど野代にとってはかわいくて仕方なくて。 「そりゃ、さ。無理矢理ヤっちまおう、なんてことは考えてないよ。おまえが嫌がることなんてしたくないし。ただ、そんな気持ちでおまえのこと見てる俺のこと、そばに置いていても平気なのか?」  涙が、零れるんじゃないかと思う。  少し潤んだ新田の目は、野代のそれをじっと見詰めている。 「……野代は、俺んこと友達とは思えない?」  小さな声で問う新田に、野代は笑った。 「そんなことないよ。おまえのこと、好きだと思うのは勿論友達だって気持ちも含んでる。俺はまあ、連れは多い方だし誰とでもテキトーに付き合っちゃうけどさ。でも、おまえとはずっと一緒にいられるなって思ってるし、それが基本でそこからもっとそれ以上の“好き”ってのが出てきたわけで」 「だったら。友達で、いようよ。俺、一緒にいて楽しいのはおまえだけだ。そりゃ、神原もこんだけ一緒にいれば楽しいっちゃー楽しいけどさ。でも……」 「わかったよ」  ぐずぐずと言い訳を考えようとする新田の言葉を遮った。 「俺はおまえの傍にいられるならそれで構わない。勿論、おまえのことは友達だと思ってるから、無茶なことはしないし、するようだったらいつでも追い出してくれたらいい。だから……」  まだ、不安な表情を消せないでいる新田に野代は笑いかけた。  そして、 「一緒に、暮らそう」  はっきり言い切った。  その時の新田が見せてくれた表情は一生忘れないだろうと野代は思った。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加