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つまり、本来なら彼女の帰宅はもっと遅くなっていたはずということ。
もしやそのせいで、コソ泥が隠れたり逃げたりするよりも前に妹が帰宅してしまったということだったとしたら――。
――待って。ちょっと、待ってよ?
その時。
私は、恐ろしい可能性に気が付いてしまった。
不可解なコソ泥の行動と目的。
完全な密室だったはずの部屋。
逃げそびれた犯人。
それらの違和感が、全て説明できる理由が一つだけあるのではないだろうか。
――犯人がもし、里奈子のいつもより早い帰宅で逃げそびれたんだとしたら。犯人はただのコソドロじゃない。里奈子の帰宅時間を把握していたってことになる。把握していたからこそ、見誤った……。
つまり、犯人はそういった情報を知ることができる人物ということである。
さらに、部屋の完全に密室。あの日、玄関も窓も完璧に鍵がかかっていたし、ピッキングされたような形跡もなかったように思う。秘密の抜け道のようなものもなかった。そんな場所に侵入するなど、本来は不可能である――だがそれは、“あの日に限れば”の話だ。里奈子が“絶対鍵をかけて出て行った”と保障したのはあの日だけ。彼女の“玄関の鍵のかけ忘れ”が珍しくないことは私も本人もよくわかっているはず。それこそ何日か前にでも鍵をかけ忘れた日が一度でもあったなら、その日に侵入することは十分に可能であったはずだ。
そして、そのままずっと部屋の押入れにでも隠れ潜んでいた可能性。
本来なら、そんな長期間隠れ続けるのは不可能だろう。だが犯人は、里奈子の行動時間も、眠ったらそうそう起きない性質も知っていたような人物。そうだ、どの押入れがデッドスペースになっているのか、よく知っていたなら数日以上も隠れ続けることも可能ではないか。それこそ里奈子がいない時間に抜け出して買い物、ゴミ捨てに言っても問題はない。内鍵は、鍵を持っていなくてもかけられるのだから。
下手すれば。その人物の私物が、未だに部屋に残ったままになっていてもおかしくはないだろう。――そう。犯人が、里奈子とあの部屋で同棲していた人物ならば、それくらい簡単なことではないか。
何故犯人は万全すぎるほど変装していた?里奈子に万が一見られても顔見知りだとバレないようにするためではないか。それこそ、別れた後まで部屋に隠れ潜むという、ストーカー行為をしていたことに気づかれないためであったとしたら。
――里奈子の、彼氏。健太郎さんとは、一度も面識がない……。
ぞわり、と背筋が泡立った。
――私と里奈子はそっくり同じ顔。もし、里奈子に双子の姉妹がいることを、彼が知らなかったとしたら。
「おい、里奈子」
路地を歩く足が、凍り付いたように止まった。ぎょっとして振り返った私は、こちらに向けられた黒い銃口に気づくことになる。
改造エアガン。
その総称が脳裏を過った瞬間――破裂音と共に激痛が、私の体を突き抜けて言ったのだった。
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