ほら、セバスチャンはそこにいる

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 *** 『とにかく、警察に被害届は出すんだよ、いい?それと、毎日ちゃんと鍵かけて寝る。ていうか、心配なら一度ウチに帰ってきてもいいから』 『ありがと、検討する……』  翌日、日曜日の朝。コンビニを出たところで、私は妹にそうLANEを送った。さすがに心配だったというのが大きい。というのも、例のコソドロを結局自分は捕まえることができなかったからである。泥棒はいたにはいたのだが、技をかける前に間をすり抜けて玄関から逃げられてしまったのだ。しかも、顔を帽子やらマスクやらでがっちり隠していたので、まったく顔がわからなかった。派手な金髪頭だったが、あれもひょっとしたらカツラであったのかもしれない。 ――あの泥棒、一体どうやって里奈子の部屋に入ったんだ?  一番気になるのは、そこである。  部屋の鍵は、確かにかかったままになっていた。泥棒を逃がしてしまったあとで確認したところ、窓の類もしっかりしまった状態であったのである。つまり、部屋は完全な密室。念のため天井裏だとか、おかしな抜け道がないかも調べたがそんなものが見つかる様子もなかった。財布や通帳の類は見つからなかったのか盗られた様子はなく、結局何が目的なのもわかってはいないが――それでも密室に侵入されたというだけで気分が悪いのは間違いないことである。  鍵を壊されたか、合鍵を作られたか。  だが、里奈子いわく鍵は半月前に替えたばかり。壊された形跡もなし。そして、最近は――少なくとも昨日は、確実に鍵をかけて出て行ったと主張した。子供の頃から鍵のかけ忘れが多い里奈子であったので一番怪しいのはそこであったのだが、本人はそれだけはないと頑として譲らない。まあ実際、ちゃんと鍵がかかっている玄関を私も目撃している。 ――ってことは、鍵をかけ忘れた別の日に侵入して、そのまま部屋にいたってオチ?……いやいや、さすがにそりゃないか。いくらなんでも里奈子に気づかれないまま、何日も部屋の中で息を殺してるとか無理でしょ。  確かに、里奈子の部屋はなかなかごっちゃりしているし、ろくに機能していない押入れやクローゼットもありそうではある。もっと言うと一度寝るとなかなか起きないので、夜中にこっそり動いていても本人にバレなかった可能性はあるだろう。  だがそんなのは、たまたま鍵のかけ忘れに気づいて侵入したコソドロにできる芸当とは思えない。そんな暇があるなら、さっさと家探ししてお金を盗り、妹が寝ている間に部屋を出て行ってしまえばいいのだから。あるいは、眠っている間に住人を殺すことも可能ではなかったはず。あまり考えたいことではないけれども。 ――そもそも、里奈子がいない時間なんかいくらでもあったんだもの。盗みが目的なら、そのいない時間に抜け出したって全然いいわけだし……んん?じゃあ、ますますあのコソドロの目的わからないんだけど?  そこで、私はあることを思い出した。  そういえば昨日は本来、里奈子は二コマ分の授業を取っていたはずである。それが、電話がかかってきた=彼女が帰宅したのは随分早い時間だった。恐らくいつもと違って一コマだけ受けて帰って来たと言うことだろう。大学生なら時々あること、恐らく片方の授業は急遽休講にでもなったのだ。
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