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ほら、セバスチャンはそこにいる
『加奈子加奈子加奈子ぉ!お願い、助けてぇ!』
近所のマンションに住んでいる双子の妹からヘルプが入ったのは、ついさっきのことである。半泣きどころか大泣きの状態で突然そう泣き叫ばれては、そりゃあもう何事かと思うだろう。
双子だが、私と妹の里奈子の性格はまるで似ていない。一卵性双生児なので顔こそそっくりなものの、中身は正反対だ。大人しくて泣き虫な里奈子と、体育会系で空手の黒帯を持っている私。それでも水と火レベルで違うのが逆に良かったのか、大学生になってバラバラに生活するようになった今でもそれなりにうまくやれている。
ちなみに超ご近所なのに妹が別に一人でアパートを借りている理由は、ちょっと前まで彼氏の“健太郎さん”と同棲していたから、であったりする。まあ、三か月ほど前にボロッボロの酷い別れ方をしたようだが。お互いに価値観が合わなすぎて(健太郎の趣味のエアガンコレクションと、里奈子のオタグッズの置き場で全力で揉めたのが発端らしい)、殴り合いの大喧嘩をしたんだとかなんとか。
今はもう割り切ってすっきりした顔をしているのがちょっとだけ憎たらしい。悲しいかな、長年運動部一筋であった私は妹と違ってまるっきり男に縁がなく、今でも彼氏いない歴=年齢の有様である。
で、話は戻るのだが。
彼女が何を助けて欲しいのか言えば、単純な話“家に泥棒が入ったっぽいからお姉ちゃんなんとかして”ということであるそうな。昔からこうだよなあ、と私は呆れるしかない。空手を習う前から、私は喧嘩っぱやくて男の子にも負けないような子供だった。妹はいじめられるたびに私のところに飛んできて泣きついては、あのいじめっ子やっつけて!を繰り返していたのである。
きっと相手のガキ大将はさぞトラウマを植え付けられたことだろう。さっきまでいじめていた大人しくて泣き虫な女の子、と同じ顔をした女が。それはも鬼の形相で、容赦なく金的を狙ってくるのだから。
――今から思うと、あれ絶対里奈子に気があったからいじめてただけだよなあ。ほんと、お気の毒様ですこと。
『加奈子早くううう!マジで怖いんだってばぁ!』
「あーもうはいはいはいはい。そんな大声出したら騒ぎになるでしょうが。ていうか、警察呼んだ方がいいんじゃないの?本当に泥棒なら」
『やだよ勘違いだったら恥ずかしいじゃん。それに、人に見られたくないようなオタグッズとかいっぱいあるし、警察の人に入られるのもほんとはイヤなんだから!』
「こんのワガママ娘……」
そんなこと言っている場合か。そう思いつつも、なんだかんだで宥めつつ、彼女のマンションに向かってしまう自分はやっぱり甘いのだろう。
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