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なんでこんなことに…
「部長、資料お届けしました。」
『水谷さん、本当に助かった。通常なら君に頼むような仕事じゃないんだが……。』
電話口から聞こえる、穏やかで人のよさそうな男の人の声。
私の上司、野村部長。
声の通り仏様のように穏やかで優しい人なのだけど、仕事は迅速でミスもなく、目立たないがきっちり仕事のできる尊敬できる上司だ。
「別にかまいませんよ。他の皆さん、今手がけてる案件で大忙しじゃないですか。ただの一般事務の私がお役に立てるのなら、資料届けるくらいどうってことありませんよ。」
私が今勤めているのは、ある大手企業の中にあるマーケティング部。
そこで皆さんの補助や補佐的業務をこなしている。
言うなれば、縁の下の力持ち的なポジションだ。
『本当にありがとう。……そこからだと、もう今から会社に戻っても定時だ。水谷さんが問題なければこのまま直帰でもかまわないけど、どうする?』
なっ、なんとっ!?
直帰してもいいの!?
そうしたら、ちょうど帰り道に『神様なんて信じない』を予約した本屋さんがある。
一分一秒でも早く新刊を手にしたい!
出かけるならと、バックもそのまま肩にひっかけて持ってきた。
やりかけている仕事も……ないわけではないが、今日中にしなきゃいけないわけでもない。
なので、会社に戻る理由もない。
「では、お言葉に甘えてもいいでしょうか?」
『オッケー。じゃあまた明日。おつかれさん。』
「お疲れ様でした。失礼します。」
私はスマホの通話終了の電話マークをタップ。
「……よっしゃー!本屋へ直行!」
思わずガッツポーズなんてしてしまう。
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