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「ふむ…。時間を潰すのも悪くないとは思うけど、むこうさん、なかなか盛り上がってるみたいだから、一旦帰って明日にしたほうがいいんじゃないか?」
まぁ、聞こえてくる喘ぎ声と粘着質な水音から、とても盛り上がっているのは間違いない。
だけど……
「……明日にできるものなら明日にします。……実は、デスクに忘れた家の鍵を取りに来たんです。あれがないと家に入れませんから……」
なんとも切なくなり、私はふっと部屋のすみっこに目を向けた。
……私、なにか悪いことしましたかね…?
それとも、ただ単に運が悪いだけ?
「……家の鍵…。それは……なんとも……」
気の毒そうな、なんともいえない表情となった男の人に、私は無理矢理笑顔を浮かべた。
「最悪、ここの仮眠室で一泊しますよ。」
このビルには別のフロアに仮眠室が作られており、誰でも使用可能。
残業して帰れないわけでもないから、仮眠室を使うのは気が引けるけど……
その辺の公園で一夜を明かすのはちょっと……。
あいにく、カプセルホテルだったり、漫画喫茶やネットカフェが会社の近くにあるわけでもないので、気が引けても背に腹はかえられない。
……でも…、仮眠室、何室かあったはずだけど、全部使用中だったら……
いやいや、滅多に使用されてるような様子はないから、たぶん大丈夫だろう。
「……俺、この書類を部長のデスクに置きに来たんだ。」
そう言って、小脇に抱えていた大きめな茶封筒を、空いている手でぺしぺしと叩く男の人。
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