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一体、何が起きているのか、全くわからない中、大量の傘の群れは、暗黒の夜空をひたすら飛び続けた。
そしてしばらくして、傘の大群は急に動きを止めた。
傘の大群が漆黒の夜空に浮かんだまま動きを止めたので、私は自然と地上を見下ろした。
その時、私には、
"あの人"が見えた。
真夜中に地上で動き回る、あの人の姿が。
あの人はヘルメットを被り、作業着姿で忙しなく動き回っていた。
どうやら地上に見えるのは道路工事の現場のようだった。
あの人は、その場所を通る車や通行人の交通整理をしていた。
何であの人がそんなことをしてるのか、私にはよくわからなかったが、あの人はただひたすら、忙しなく動き続けていた。
しばらくして、あの人は、工事現場から姿を消したが、少ししてから、私服姿で戻ってきた。
他の作業着を着ている人たちに甲斐甲斐しく挨拶をしながら、その場を離れようとしていた。
あの人の、交通整理の仕事が終わった、ということだろうか?
あの人はそのままずっと歩き続け、やがてある裏通りのビルの一室に入っていった。
それまで静止していた傘の大群が、急にあの人の動きに合わせて、少し動き出した。
まるであの人を追跡するかのように…。
ビルの一室は、中の様子が窓から見えた。
中には2、3人のスーツ姿の男たちがいて、あの人はその前で土下座をして頭を下げていた。
「損失した分は必ずお返しいたします。もう少しお時間を下さい」
あの人はそう言って、土下座をしたまま、男たちに頭を下げていた。
「いや、まあ、コンスタントに返してもらってるから、別にいいんだけどね。でも無理に仕事を続ける必要はないんじゃないかね?」
あの人に土下座されている壮年の男が、随分と優しそうに、あの人を諭すかのようにそう言った。
「ええ、それはそうなんですが。ただまあ、これも乗り掛かった船でして。青臭いとお笑いになるかもしれませんが、夢を持って始めた仕事で、そいつにちょっとつまずいたからって、ここで諦めるわけにはいかないものでして…どうかお笑いください」
あの人はそう言って、また頭を下げた。
「ふーん。しかし損失を出したミスはあんたがやったミスじゃないだろ。だったら一度全部システムをリセットした方が、今後の問題も少なくなるだろうし、スッキリするんじゃないかな」
「ご忠告ありがとうございます。ただあのミスはまだウチの者が仕事をちゃんと覚える前にやったミスでして、仕方がないところがあるのです。今はそれからかなり能力を上げて頑張っておりますので、何とかこのままやっていきたいのですが…。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。よろしくお願い致します」
「そうか…。まあ、わかったよ。君のそういう熱い気持ちや周りを気遣うところが、君の信頼出来るところだしな。まあ、しばらくこのまま頑張りたまえ」
「ありがとうございます」
あの人はそう言って何度も、ただひたすら頭を下げていた…。
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