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隣の席の女の子が冬眠に入った。「いつまでだ?」と聞くと、わからないという。
僕はつまらなくなったなあと思った。
冬眠に入った女の子は綺麗で、話も面白かった。八重歯があって、優しい匂いがした。僕が教科書を忘れたときなんかは、笑顔で貸してくれた。
制服の襟に、ふんわりと毛先がのっている。その瑞々しさと生き生きさは、僕にこんな子でも冬眠してしまうんだと思わせた。彼女はおしゃべりで、知的で、端的に物事を判断する快活さをまとっていた。
「ヒナノさんが冬眠に入ったので、代わりに学級委員ができる生徒はいませんか?」
教壇に立った男子生徒が言った。彼はもう一人の学級委員だった。
ヒナノ。そうだ。あの子の名前はヒナノだ。ヒナノさんは僕の、無粋な制服の綻びを、はじめて愛でてくれた人だ。
「かわいい」
席替えで隣同士になったとき、ヒナノさんは僕に言った。
「かわいい?」
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