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俺にはパートナーがいる。高校で出会って付き合った、同性の優希だ。学生にしてパートナーという表現をするのには意味がある。俺たちは強い恋愛感情を持って惹かれ合ったわけではない。初めは大学で出会った友人だったが、会話をしていくうちに、恋愛をしたことはないけどパートナーは欲しいかな。一緒にいたら安心できる感覚を大事にしたいな。そんな一致からパートナーになった。なので、恋人と表現すると違う意味合いになってしまう。
ただ、俺にはパートナーを最も初めに了承してもらわなければいけない相手がいる。
大学の帰り道、俺と優希は駅に向かいながら会話をしていた。
「来週提出の課題やっちゃおうよ」
「んー、じゃあ今日明日バイトないし、俺んち泊まる?路線違うし、微妙に帰るの面倒くさいでしょ」
優希の住んでいるアパートと俺の住んでいるアパートの沿線は反対方向。バスで乗り継ぐのも面倒な距離である。今日は20時近くまで講義があったので疲れてしまったという理由もあり、優希の家へ泊まることにした。
あまり利用しない水色の路線。意外にも混んでいて、仕方なく立つこととした。
「でも、深春と会うの億劫だなぁ…」
思わず本音が溢れる。優希は笑いながら、
「深春はなかなか認めてくれないからなぁ」
そう、パートナーという関係を了承してもらわなければいけない相手というのは深春という女の子だ。俺は深春に認められるどころか嫌われ、さらに気に食わない時は手を出される始末である。
最寄駅から徒歩15分ほどで優希のアパートに到着した。優希が扉を開ける瞬間、ぞくりといやな感覚がする。
「ただいま深春」
深春は返事をするわけではないがトコトコと優希の前に現れ、優希の足に伸び上がった。優希は猫撫で声で深春を抱き、俺と目線を合わせた。
「ウーー……」
頭にきているのだろうという声を出す。そう、深春は優希の飼い猫なのだ。去年、アパートの近くで捨てられていた子猫の深春を保護したらしい。その頃から徐々に深春に会っていたものの、一向に空いてくれる気配はない。
「深春、かわいいね。こんにちは」
触れようとすると、猫パンチ!手を出すのが早い。
「じゃあ、とりあえず中入ろうか」
締め切りが近日中の課題は想定よりも早く終わり、すぐにごろごろと横になった。深春は優希の姿が確認できるところでグルーミングをしている。優希がトイレに立つとトイレの目の前までついていく。
保護して1年以上経つというのに、どうしてこんなに子どものような性格をしているのだろう。どうして俺には懐いてくれないのだろうと考えたことを優希になんとなく話した。すると、
「あぁ、僕も気になって調べたんだけどね、生後2ヶ月以内にお母さんから引き離された猫は分離不安を覚えるんだって。僕を追ったり、僕以外に懐かないのはそのせいなんじゃないかって」
「確かに、深春が家に来たときは片手の平に乗るサイズだったんだよ。2ヶ月も一緒にいないと思う。だから、それが深春なんだろうなぁ愛さないとなぁって思ってさ」
深春は飼い主である優希しか見えていない。俺が一緒にいるととられるかもしれないとでも思うのだろう。確かにそうだ。パートナーという立場で深春の立場を脅かそうとしているのだから。
「じゃあさ、俺も飼い主になっていい?」
「…?どういうこと?」
「戸籍上…深春に戸籍はないけど形式上深春の親になるってこと!普通の家族だって、愛する対象が増えても愛せたりするじゃん。だからそれを深春に示したい!」
そう捲し立てると、優希は力が抜けたような顔になった。
「何をいうかと思ったら、そういうことか。じゃあ、今日からやってみようか。…パートナーとして深春ともどもよろしくしてね」
「もちろん!なぁ、深春」
眠そうな深春はじろりとこちらを睨んだだけだったが、なんだかここから始まるような気がした。
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