第1話 運命の人に出会えるカクテル【星空とガラスのくつ】

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第1話 運命の人に出会えるカクテル【星空とガラスのくつ】

 限られた人しかたどり着けない不思議なバーがある。一般的には秘密のお店だ。  このバーには世にも不思議なバーテンの神酒(かみさか)さんがいる。世にも不思議なノンアルコールカクテルでお客様の希望にあったなんとも神がかったカクテルを創ってくれるらしい。神酒はいつも営業スマイルで、物腰は穏やかな20代くらいの青年だ。彼が感情をあらわにすることは滅多になく、いつも冷静だ。そして、顔立ちは端正で女性にとても人気がある。  人と人とが交わり集うお店は子供から大人まで幅広い年代に親しまれている。  バーに来るお客様にはいい人がいない、誰かいたら紹介してと言ってくる若いお客様がいる。いい人、これは難しい問題だ。年齢性別問わなければ、わりといるのではないだろうか。しかし、彼らが言ういい人は恋愛対象にしてのいい人なのだ。  訪れたのは、女子高生だ。 「私、この店はじめてなの。どんな飲み物があるの?」  メニューを見る。聞いたこともない飲み物がたくさんある。 「星空とガラスのくつってちょっと気になるかも」 「今、あなたはいい人がいないということで悩んでいますよね?」  神酒は、ずばりと言い当てる。まるで心を読むことができる人間のようだ。 「あれ? わかります? いい人がいたら是非ご紹介を!!」  女性は手を合わせて懇願する。 「あなたにとってのいい人という基準が他人には曖昧過ぎてわかりにくいですよね。もっと具体的におっしゃってください」 「性格が良くて、服のセンスがそこそこ良くて、優しい人」 「これもわかりにくいですね。性格がいい、優しいというのは抽象的です。服のセンスだって人によって良いの基準は違いますし」 「じゃあ、マスターみたいなイケメンな男性で」  最初こそ遠慮がちだったが、今のはかなり具体的な表現だ。  「星空とガラスのくつというカクテルを飲むと、あなたの思ういい人に出会える可能性が高くなるかもしれませんよ。シンデレラみたいに出会った人にひとめぼれできるカクテルなのですよ」 「運命の出会いですか?」  女性は目を輝かせる。 「ごちそうさま」  ここのドリンクは、見た感じは高そうな凝ったドリンクなのに、ちょっとした喫茶店として利用できる低価格がウリだ。 「お幸せに」  軽く神酒が手を振る。女子高生は通学カバンをひらりと持って帰宅する。 「マスター、あのカクテルはどんな効果があるんですか?」  創作カクテルの修行中であるアルバイトの女性、二葉が訪ねる。  少し間を置いて神酒は口を開く。 「あのカクテルは理想を落とすんです」 「え?」 「理想を低くするということです。だから、すぐに理想の相手がみつかるんですよ。いい人がいないという人は、いい人の基準を下げないとだめだということです」  1週間後、彼女は幸せそうに男子高校生と共にバーを訪れた。そして、感謝の言葉を述べた。 「理想的な男性に出会えました。とても幸せです」  彼女の隣にいる男性は、見た目は地味でイケメンではないが、とても誠実そうで堅実な印象だった。  神酒はにこやかに二葉に言う。 「外見にばかり惑わされていると本当に良いい人に出会っていても逃していることがあるのです。外見に対する価値観を少し落としただけで、出会いの幅は大幅に広がるということなのです。好きという気持ちは実に不可解ですね」
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