君の温度の感じ方

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「外気温の影響を減らし、体温をできるだけ正確に測定したいなら、最も適切な部位、どこだと思う?」 「…は?」 今度は急に何なんだ。 外見に思わず見惚れてしまったが、やはりこいつはただの理屈っぽいクレーマーなのか。 「ヒントは、血流の豊富な場所。」 「は??」 訳がわかっていない俺の様子を見ているそいつは、なぜか楽しそうだ。 「今から見るこの映画のチケット、もう1枚買ってあるから、はい。君に渡しておく。もうバイト終わるよね、中で待ってるよ。じゃ。」 そう言い残し、男はスクリーン3の方へ颯爽と歩いて行った。 「………えっ……??はぁ!?」 バイトの時間が、終了し、控え室で着替えも済ませた。 さてここから、どうしたものか。 特に予定があるわけでもないし、バイトの規則上も、映画を見てから帰ることについて全く問題はない。 問題は、どうするか、なのだ。 あの男は何がしたい? ナンパ? いやいや俺を?意味わからない。 普通に女に困ってないタイプだろ。 クレーム? いやいや俺を? わざわざバイトの俺を呼び出してまでのトラブルではないと思う。 金目当て? いやいや俺から奪える金額なんて、たかが知れてることくらい、想像できるでしょう。 受け取らされたチケットの映画は、上映終了まであと30分だ。 ふと、あの男のヒントが、頭をよぎった。 血流の豊富な場所って言われると、何というか、その、あの、元気になったりするアレかと一瞬… って、いやいや、何考えてんだ俺は。 すぐこんな発想になってしまうのも、永らく彼女がいない影響だろうか。欲求不満というか、そういうことなのか、全く本当に、どうしようもない。 それはともかく、なぜかはわからないが、なんとなくあの男に、興味をもってしまったのは事実だった。 「ま、映画だけなら、ちょっと付き合ってみるか。」 俺は、そいつがいるはずのスクリーン3へ、向かうことにした。
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