君の温度の感じ方

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スクリーン3で上映中の映画は、話題になっているアニメ作品の実写版だった。最近人気の若手俳優が主演で、原作の世界観が比較的良く表現されているということで、なかなかの評判らしい。 とはいえ、平日でこの時間ということもあり、ここに来る前に席の埋まり具合を確認してきたが、客はその男と俺だけのようだった。 「Lー13と…」 指定された自分の座席に手をかけたところで、一つ席をあけた位置に座る、あの男と目が合った。 「…ども。」 俺はとりあえず挨拶をして、視線をスクリーンに向けながら、座席に腰を下ろした。 「さっきの答え、わかった?」 その男が、小声で俺に話しかけてきた。 映画見なくて良いのかよ、と心の中では思いつつ、俺は 「いや、わからないっす。」 と、スクリーンの方を向いたまま答えた。 「じゃ、特別ボーナス問題。 このボーナス問題の答えが合っていたら、さっきの答えも教えるよ。」 「なんすかそれ。答えが貰えないまま、問題ばっかりだな。」 俺の返事が聞こえたのかどうかはわからないが、その男は、再び話し始めた。 「さてさてこちらが、ボーナス問題。 コロナ禍で、映画館も一席あけての観覧となっているわけですが、席を立たずに、一席隣の人とキスはできるでしょうか。」 「どういう問題だよ…。そもそも社会的距離をとりましょうって言われてるわけだし、公共の映画館でキスすんなって話だけど。」 だいたいどこがボーナス問題なんだか、と思いながらも、基本的に真面目な性格の俺は、一席先の人と、唇を近づけることができるか、ぼんやり想像してみた。 一席先の人…。 必然的に、こちらを向いているあの男と目が合った。
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