私は愛を嗅いでいた…

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困った副作用 それから約1か月後…。 R子は指示通り、W氏のクリニックを訪れた。 「えっ?他人の幸せを壊したい欲求がまた出てきたというんですか、R子さん…」 W氏はやや怪訝な顔つきで聞き返した。 「いえ…、以前のように妬んだりって気持ちは、おそらく人並み程度になったと思うんです。ですから、もう、人が幸せそうにしてるだけで許せないとかって思いは全くなくなりました。でも…」 「でも、どうしたんですか?何か副作用のような症状でも出ましたかな…」 「まあ、あの時の逆療法の副作用なのかどうかは、わかりませんが…。実は…、私、人がラブラブとかで強い妬みを持ったことを認めて、全部さらけ出して許しを乞い、お仕置きされたあの感覚が忘れられないみたいで…。いっそ、ああいった、人間としては最低の心ない行為をした自分に戻って、あの時みたいに叱責してもらいたいって…、そんな衝動がどこかに生まれちゃったようなんです」 W氏は目をぱちくりさせて、彼女の言をかみ砕いていた…。 *** 「はあ…?じゃあ、R子さんは、以前みたいに親しい同性の友達とかが結婚したりするのを妬んで例の下劣な願望を持って、あの夜のような気持ちになれないと、フツーに人を愛する時分を認められないって思いが脇照っているというんですか?つまり、”それ”を動機にした妬み心に引き寄せられてると…」 「ええ‥、極めて短絡的だとは思うんですが…。まあ、頭の中で、もしそうなればって思い描く程度なんですが…。これって、先生…、副作用になるんでしょうか?」 「うーん…。アナタの場合、長い間にわたり、人の幸せを奪ってやりたいという願望がとても強かったということで、自分に対する罪悪感も潜在的にはかなりこびりついていて、心のぬめりは残像のような形で宿しているというのかな…」 「そんなカンジだと思います…」 「…だから、そこをビシッと責めて自分をさらけ出させてくれたU子さんからの仕打ちが、そこと連動して、深く胸に染み込んでしまったんのかもしれん…」 「やはりそういうことですよね…。”そのプロセス”を踏まないと、フツーに男の人とベッドで愛し合えないって気持ちが先に来てしまうんです」 「ふう…、そういうことなら…。R子さん、実はね、U子さんはSMクラブで働いてるS女なんだよ。もしそういった、自分を叱って欲しいという願望が強くなったら、ちょっと高くつくが、店に行ってみたらどうかな。要はどんな理由付けでも、おし置きなんかしてくれるから。別に、人の幸せを妬んだりの前提はいらないんだ。あんまりのめり込むのはまずいが、人間誰しもそう言った願望はあると思うしね。まあ、これが副作用かどうかは、しばらく様子を見ましょう」 「はい…。よろしくお願いします…」 *** だが、その後…。 R子は頻繁にU子のお仕置きをねだりにSMクラブへ通うようになった。 それは言わば、病みつきのレベルにまで達していた。 W氏の診断はかなり要注意な副作用と見て、R子には極度の”心的限定依存執着症候群”という長ったらしい病名を下し、目下、その対処シュミレーションを模索している‥。 愛を嗅ぐ ー完ー
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