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祖母の一言
「この子は本当に口の聞けない子だねえ」
祖母は深いため息を吐きながら、緑茶を啜った。
その傍らには絵本を大人しく読む少年がぽつんと座っていた。
それが菅原家の日常だった。
「あけ美さん、あけ美さん」
祖母が母を呼ぶ。
いつでも僕は大人しく祖母の隣で黙々と本を読んでいた。
母はキッチンから忙しくバタバタと走ってきた。
「何ですか、お義母さん」
「俊くんのことなのだけれど……。」
祖母は緑茶を啜ってからまた深いため息を吐いた。
そして頬杖をついて「この子、病気なんじゃないのかい?」と傍らに座る僕を横目に、まるで煙たがる様に言った。
あの日のことは今でも割と覚えている。
母は目を丸くして一言「は……?」とだけ呟いた。
そりゃそうだ、何を根拠に自分の息子が病気だなんて言われているのか分からないもの。
「お義母さん、あのどういうことでしょう?俊は至って健康ですが?」
「ばか嫁、頭よ。障害持ちなんじゃないの?って」祖母は少々きつめに母に訴えた。
僕もこのとき言葉の意味や本質は分からなかったのですが、なんとなく祖母にバカにされているというのは感じ取っていた。
「そんな、俊は目立っておかしな行動もしませんし!」
母も負けじと祖母に訴える。
祖母は顔の前でパタパタと手を振って「いやねえこの子、遅いじゃない」鼻で笑ってから冷たくそう言い放った。
母の目はみるみる内に潤んでいく、顔も次第に紅潮していく。
そんな姿を僕はまじまじと見ていた気がする。
そして祖母は嫌味っぽく母を睨みつけてとんでもないことを言った。
「あけ美さん、同居していただけるのはありがたいけど私、障害持ちの子と四六時中居たいわけじゃないの。いつも忙しさに託けてこの子を押し付けてくるけど、あなたが面倒くさいだけじゃなくて?誠ちゃんのときはそんなことなかったじゃない!」
祖母はヤダヤダと呟き、ふんっと背を向けて外へ出て行ってしまった。
ご存知の通り誠ちゃんは僕の兄のことで、何かと優秀な兄だ。
「……俊」
母は絵本を読む僕を強く強く抱きしめた。
母は子どもの様に声を上げて泣いた。
辛い、悲しいと何度も言いながら。
僕はそんな母を見るのが一番嫌で泣いた。
二人の泣き声が部屋中に響き渡った。
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