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レッテル
翌日、僕と母は小児科に通った。
僕は病院へ行くのを嫌がった。
母に無理やり連れて行かれた記憶がほんの少し残っている。
なんで嫌がっていたのかはとうの昔に忘れた。
「俊!言うこと聞きなさい!」
この一言でぴたっと涙が引っ込んだのは覚えているけど。
あの母の必死な顔、しんとした車内、まるで日常からはみ出した様な瞬間だった。
受付を終え、問診票に診察内容を記入。
待合室ではいつもの優しく明るい母の顔は、まるでなかった。
──「菅原さん、どうぞ」
看護師が高い声で呼ぶ。
母に手を引かれて僕は診察室へと入った。
細かいことはもう覚えていないんだけど、車に乗るまでずっと母は険しい顔をしていた様な気がする。
僕はその日からその小児科に通院することになった。
僕のお世話になっていた医師を五十嵐先生というんだけど、この人がまた良い人で。
通院を嫌がっている僕のことを察していたのか、毎回診察後には飴をくれていたんだ。
だから病院は飴を貰えるところだって概念があって、あまり嫌じゃなかった。
嫌だったのは身の周りの人々。
祖母を始め、親戚、祖母のご近所友達、挙げ句の果てに父も僕との接し方を変えてしまった。
「あけ美、誠司の教育に悪いから俊をあまり甘やかすのはやめろよ」
父は夕食中にそんなことを言った。
母は頭を抱えて「ちょっと、あなたまで俊になんてこと言うの?」
「俊にじゃないお前にだ。お前が甘やかすから……!」
「何よ!誰も悪くないじゃない!」
「何を!障がいなんて、甘えじゃないないのか!?大体次男坊だからって甘やかすから……!」
「誠司も俊も差別して育てた覚えはありません!」
母はガタッと立ち上がって父に反論した。
父はそんな母を適当な言葉で論破していた。
そんなケンカまみれの日常が、3年も続いたことに兄も僕も正直驚いていた。
話の流れで分かるかもしれないが、このときから僕は障がいを負っていることが分かったんだ。
病名は、自閉症スペクトラム。
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