あの世とこの世

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皆はこの私たちが生きている世界をこの世と呼び、死後の世界をあの世と呼ぶ。人というのは勝手だ。この地球上の世界が基準だと思っている。でも、僕はそうは思わない。どちらも同じ。いや、むしろあの世と呼ばれている死後の世界の方が基準なのではないのだろうか?なぜ僕がこんなことを言うのか?僕には前世の記憶があるのだ。いや、前前世の記憶も前前前世の記憶だって、、、もっと前の記憶もあったけど今は少ししか思い出せない。もちろんあの世で何があったのかも覚えている。  普通はこの世に下される時に神様の呪文によって前世と天であった出来事の記憶を消されてしまう。しかし、僕には呪文がうまく効かないようだ。前世で何をしたのかの記憶はまでは忘れてしまっているが自分が何であったのかは覚えている。  前世は猫だった。ヨーロッパあたりで飼われていた気がする。その前は動物園のワニ。その前は広い海を自由に泳ぎ回る魚。その前は、、、虫だった気がするけど忘れた。  今世は人間。日本人の男だ。でも、もうすぐ今世も終わりだろう。僕は病に侵されている。不治の病。23歳だと言うのに胃ガンにかかっていたのだ。胃が痛いな?飲み過ぎかな?とか思っていたらガンだった。若いだけあって進行も早く時期にあちこちに転移した。最近は痛みで眠れなかった。でも、今は夢を見ている気分だ。だから、わかる「ああ、もうすぐ死ぬんだな。」って。    突然世界が体が軽くなった。俗に言うあの世に来たようだ。一面草原でみんな楽しそうにしている。ここはいつも晴れ。暑すぎず、寒すぎずいい気温。心地よい風が吹いている。あ、向こうから柴犬がやってくる。僕が20歳の時に亡くなった、コロだ。 「コロ!」 思いっきり抱きしめた。 あ、向こうで手招きしているのは去年亡くなったおじいちゃんだ。コロと一緒におじいちゃんのところに行く。おじいちゃんの隣のお洒落な椅子に腰掛けた。 「おお、やっと戻ってきたか。」 おじいちゃんはそう言う。 「うん、ただいま。」 そう、この世界はこの世界が中心なのだ。 みんなが言うこの世は修業の世界。だから、争いもあるし、災害もある。でも、ここ、俗に言うあの世には争いも災害もない。地球上での修業を終えて戻ってきたものが次の修業の場を与えられるまで寛げる落ち着いた場所。座っているといろんな動物や人たちが寄ってきた。皆口々に「おかえりなさい。」、「お疲れ様。」と口にする。もちろんコロやおじいちゃんみたいに知っている人だけではない。知らない人も沢山いる。でも、ここではみな家族のようなものなのだ。だから、修業を終えて帰ってくると皆が歓迎してくれる。毎日沢山の生命が修行を終えて帰ってくるから毎日お疲れ様の晩餐会が開かれている。そして、毎日のように修行に旅立つ生命がいて、旅立つ生命へのお別れ会が開かれている。修行に旅立つ仲間を見送るのは寂しい。ここで仲良く過ごしたり、地球上で過ごして別れた後ここで再開した生命で有れば特に、、、しかし、ここでくつろいでいられるのは大体1.2年長くて3年程度だ。だから、ここでコロと再開できたのは奇跡のようなものだろう。  地球上での修行を終えて、1週間、僕はここの人たちと楽しく過ごした。もちろんコロと沢山遊んだし、おじいちゃんとは思い出話やおじいちゃんが修行を終えてからのことを沢山お話しした。でも、別れは突然だった。もう修行を終えて3年経つコロが神様に呼びまだされたのだ。これは再び修行に行く合図だ。僕は悲しかった。巫女さんと共にコロは戻ってきた。巫女さんは僕とおじいちゃんに行った。「彼の次の修業の場はアメリカです。次はアメリカ人の女の子として修行に行ってもらいます。明後日、すべての記憶を消してアメリカ人女性の体内に入り込ませます。明後日までにしっかりお別れをしてあげてください。」 「‥わかりました。」 僕とおじいちゃんはそう答えた。コロは悲しそうに「クゥーン」と鳴いている。  次の日、みんなで集まって盛大にコロのさようならパーティをした。もう二度と会えなくなってしまうから。僕やおじいちゃんのことも思い出も忘れてしまうから。地球上で言う死と同じだね。泣いてしまいそうだった。でも、まだ楽しい時間を過ごしたいから。忘れてしまうけれど沢山の思い出話をした。アメリカのどんな家かな?幸せな家庭に生まれるといいねって沢山お話しした。僕たちを忘れてしまっても、また、早く修行を終えてここで過ごそうねってお話しした。  さようならパーティーの次の日コロは神様に連れて行かれて犬の姿から魂が抜かれた。僕やおじいちゃん、ほかの仲間たちもそれを見守っていた。 「最期のの挨拶をしてあげてください。」 神様はそう言った。 僕はコロに声をかける。 「絶対、修行先か、ここでまた会おうね!また、一緒の時を過ごそうね。修行先でも頑張ってね!大好きだよ!」 「コロや、アメリカでの修行も頑張るんだぞ!わしももうすぐ修行に行くことになるだろう。お互いに頑張ろうな!修行先かここで会えるといいな!」 おじいちゃんも声をかけている。 「では、出発です。」 その声と共に神様が呪文を唱える。地球上とここであった出来事を忘れさせる呪文だ。これでコロは僕たちのことを忘れてしまう。涙が出てきた。隣を見るとおじいちゃんも泣いている。  呪文が終わると神様は魂を高く上へと放った。魂はキラキラと輝きながら消えていった。アメリカ人の女性の胎内に宿ったのだろう。     その日は僕もおじいちゃんもあまり話さなかった。まるで地球上で言う誰かが亡くなった時みたいだ。ここでも同じようなことが行われているんだよ。地球が基準じゃないんだよ。死は怖いものじゃないんだ。神様の求める修行が終わった証拠なんだよ。だから、僕は何度生まれ変わっても死を恐れない。むしろ、ここに戻ってこれることを楽しみに地球上での辛い修行を乗り越えるよ。
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