マウンティング休憩室

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マウンティング休憩室

ある日のスーパーいなみ屋石ノ森店の休憩室では、レジ部門のパート女性達が昼休みで、お喋りが盛り上がっていた。レジ部門のお局様、岸辺さんが猫山さんの悪口を言う。 「シフトなんて、暇な午後の時間を貰って、忙しい平日の夜や土日なんて、子どもがいない人に押し付けちゃえばいいのよ。よっ、シフト穴埋め職人ってヨイショしておけば、猫山さんが勝手に出勤してくれるから」 岸辺さんの子分の山峰さんも、ウンウンと頷いて、猫山さんの悪口に参加する。他の女性パートさんは曖昧に笑ってお茶を濁している。 「そうですよね。猫山さんの旦那さんって携帯電話ショップの店員らしいですよ。しかも、三十歳越えて平社員。年収低そう。旦那の稼ぎが悪過ぎて二人で生活するのが精一杯なんじゃない?岸辺さんのご主人みたく、有名百貨店のフロア責任者なら、家族四人悠々自適な生活ですよね」 お局様の岸辺さんへのごますりも忘れない山峰さん。岸辺さんは自慢気に笑うと、 「まあね。社会参加したいから働いてるだけで、夫の収入だけで十分生活出来るのよ」 自分は生活に困ってないアピールをして、パート女性全員にマウンティングをかます。 ガタン。カチャカチャ。ウィーン、チャラチャラ。 休憩室の隣の事務室で、誰かが両替作業をしている気配がする。両替機の音が休憩室にも響く。事務室から出てきたのは、猫山さんだった。猫山さんは無表情のまま売り場に戻った。 「今のまさか聞かれてました?」 山峰さんが怯えていると、岸辺さんが笑い飛ばす。 「猫山さんって、何を言っても、どんな意地悪しても無反応じゃない、いつも。大丈夫よ」 岸辺さんは、コーヒーを飲み干すとエプロンをして売り場に戻る準備を始めた。そろそろ休憩時間も終わりだ。
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