倍返しの猫山さん

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倍返しの猫山さん

悪口事件の翌日、火曜日恒例の特売日。今日は様々な部門の人達が殆ど出勤している。女子更衣室は、私服から制服に着替える人で混雑している。 「おはようございます」 「おはよう、今日は混むかな?」 そんな会話が繰り広げられる。スーパーいなみ屋は24時間営業なので、何時に出勤しても挨拶はおはようございますで統一されている。 「おはようございます」 女子更衣室に、シャネルのスーツ、シャネルのバッグを身につけた誰かが入ってきた。女子更衣室にいた全員がフリーズした。視線だけでこれ誰?という無言の会話をしている。全身シャネルで決めた女性は、猫山と名札があるロッカーを開けて着替え始めた。 「猫山さん!?どうしたのその格好?」 岸辺さんが全身シャネルの猫山さんを見て悔しそうな顔をしている。猫山さんは、わざと岸辺さんの言葉の意味を取り違えたフリをした。 「やっぱり似合いませんか?旦那に貰ったんですが、私の好みじゃなくて。ジーパンにフリースの方が好きなんですが、プレゼントしたんだから着ていけってうるさくって」 猫山さんはヘラヘラ笑っている。珍しく猫山さんが笑っている。昨日の悪口の件を知っているメンバーは、猫山さんの仕返しだと思った。岸辺さんは、何かケチをつけてやろうと必死に考えて、猫山さんを指差して注意する。 「猫山さん。ここは職場なのよ。華美な服装で出勤するのはどうかと思うわ」 子分の山峰さんも続ける。 「そうよ。これ見よがしに高級ブランドのシャネルなんか着て。ロッカー荒らしが出たら猫山さんのせいだからね」 他の女性陣は着替えに忙しいフリをして関わらない。すると、猫山さんがあり得ない一言を放った。 「え?シャネルって普段使いの通勤着ですよね?まあ、私はカジュアルの方が好きなので、明日からは元の服装に戻します。着ていけってうるさいので、今日は旦那の顔を立てただけですから」 女性陣全員が猫山さんを見ている。シャネルが通勤着?猫山さんって一体何者?まさかお金持ち?全員が狐につままれたような気持ちでタイムカードを押して出勤していく。
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