猫山さんの休日

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猫山さんの休日

猫山さんのシャネル事件以来、岸辺さんも山峰さんも随分と大人しくなった。しかし、猫山さんのいないところで彼女の悪口をずっと言い続けている。 今日も勤務が終わったというのに休憩室でお茶とお菓子を食べながら、無駄話をしている。 「これ見てください。今はSNS映えする写真を撮るために、高級ブランド品をレンタルしてくれる業者があるんですよ」 山峰さんが岸辺さんにスマホの画面を見せる。 「なるほどね。旦那の年収が低そうって言われて、こういうところからブランド品を借りたんだ。猫山さんって見栄っ張り~」 岸辺さんはやっと胸のつかえが取れたような、イキイキとした表情をしている。 シフト穴埋め職人の猫山さんでも、出勤を断る日がある。猫山さんはプライベートなことをあまり語りたがらない。猫山さんは休日に何をしているのか? 「SNSじゃなかったら、あれじゃないですか?高級ブランドをレンタルして、ホストクラブとかに通い詰めてたりして、猫山さん。地味でブスな人ほどああいうのにハマるから」 山峰さんは岸辺さんの肩を軽く叩く。 「かもね。暇さえあれば出勤するのも他の男に貢ぐためだったりして。あー、怖いね」 岸辺さんは山峰さんの肩を叩き返す。 お局様とその子分の悪口を聞こえないフリをしている鼠川店長。夕方やっと休憩に入れて遅いお昼ご飯を食べている。休憩室のテレビでは、フィギュアスケートの全日本選手権が流れている。人気の男子選手が滑り終わると大量のぬいぐるみが投げ込まれた。 「あっ!あれ、猫山さんだ!」 鼠川店長がテレビを指差した。岸辺さんと山峰さんもテレビに注目する。 するとそこには…。 透明な45リットルのゴミ袋に入れた、大量のぬいぐるみを投げ込む、二人の女性の姿があった。片方は間違いなく猫山さんだ。 「投げ過ぎでしょ?節分の豆まきや運動会の玉入れじゃあるまいし」 岸辺さんが呆れていると山峰さんも、苦笑いで続ける。 「ホストじゃないけど、あれはどっぷり嵌まってますね。あのバナー、ハートマークが…」 ぬいぐるみの投げ込みが終わると、猫山さんは満面の笑みでバナーを振っていた。 『端田君、ありがとう♡』 シフト穴埋め職人の猫山さんの正体は、ディープなスケートオタクだった。
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