シフト穴埋め職人猫山さん

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シフト穴埋め職人猫山さん

今日も誰かが泣いている。シフトが埋まらず泣いている。全国の、コンビニ、スーパー、ファミレスの店長の困り事No.1、それは好き勝手に出されるパートやバイトの休み希望。 しかし、ここ、スーパーいなみ屋石ノ森店には強力な助っ人がいる。シフト穴埋め職人の称号をほしいままにする、パートの猫山さん。 鼠川店長は、埋まらないシフト表を見ると、猫山さんの携帯電話に電話をかけた。 「はい、猫山です。お疲れ様です」 猫山さんは無愛想な声で電話に出た。猫山さんは感情を余り表に出さないし、愛嬌がない。しかし、売り場に立つと笑顔のバーゲンセールでもやっているかのように、ニコニコと楽しそうに接客している。女って裏表激しくて怖いな。鼠川店長はそんなことを思いつつ、埋まらないシフトについて猫山さんに相談する。 「猫山さん、いつも悪いんだけど、来月のシフト埋まらない所、出勤して貰える?」 猫山さんは、少しだけ嬉しそうな声で、 「シフトの穴は私に任せてください!シフト穴埋め職人の称号は誰にも譲りませんから」 そう答えると、鼠川店長とシフトの相談をして、猫山さんがどうしても無理だという2日間以外、来月のシフトは綺麗に埋まった。2日間の埋まらないシフトは鼠川店長が休日出勤して埋めることになる。 「猫山さんって、どうしてそんなにシフトの穴埋めに拘るの?」 鼠川店長が聞く。猫山さんはパートで、社員でも、準社員でもない。それなのにシフトの穴埋めにとても協力的だ。猫山さんはちょっと間を置いてから、 「シフトが埋まらないと少ない人員で無理して営業することになります。そうすると急ぐので接客が雑になりがちです。雑な接客をすればお客様からクレームが入ります。クレーム対応に社員や店長が駆り出されば、売り場が手薄になり、さらに人手不足。悪循環に陥りますから」 猫山さんは淀みなく淡々と話す。 「その通りだね。猫山さんいつもありがとう。ごめんね、困ったときの猫山さん頼りで」 鼠川店長のありがとうを聞いて、猫山さんは普段殆ど言わない冗談を言う。 「まあ、なんせ苗字が猫山ですから。猫の手を貸してあげます。猫の手も借りたい人手不足」 鼠川店長は、普段ギャクも冗談も言わない猫山さんの、不意打ちギャグで笑ってしまった。 「猫山さん、面白いんだね。もっと職場の休憩室でも笑えばいいのに。とっつきにくいよ」 鼠川店長のとっつきにくいという言葉に、反論する訳でもなく猫山さんは、 「まあ、猫なんで。人に懐かないんですよ」 猫山さんはフフフと笑って、電話を切った。 鼠川店長は埋まったシフト表を印刷して、エクセルの画面を閉じる。
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