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【2】06
俺が高岡さんの言葉を咀嚼するまでの少しの間、誰もいない場所には冷えた空気が停滞していた。高岡さんはいまだ感情の読みとり切れない表情をしている。ただの嫉妬というには妙に確信めいていて、けれど俺にはやっぱり噛み砕けなかった。
「分かるもんなんだよ、同族は」
そう言って高岡さんはかたわらのペットボトルを傾ける。顎から喉仏にかけてのラインを見ながら、ぼんやりと黒部の今までを振り返る。高岡さんと黒部を脳内で整列させ、「同族」というレッテルをつけてみる。それでもあまり納得はできないままだ。黒部のいくつかの言動を思い出していた。試合前、ロッカールームであいつは何と言っていただろう。
「だからか。そうか。納得した」
「えっなんで? なんか変なことされた?」
「いや、俺じゃなくて。黒部が高岡さんと話してみたいって言ってて」
「え……?」
「なんか仲良くなりたいみたいですよ。その時はなんも考えてなかったですけど、今思うと高岡さんのこと好きなのかもしれないですね」
「え? なにそれ本気で言ってんの?」
「はい。あいつ本気っぽかったですよ」
高岡さんは驚いた様子で俺を見ている。そりゃそうだ。たった今他者紹介を終えたばかりの相手に好意を持たれているだなんて思わないのだろう。高岡さんが静かに口を開いた。
「いやそういうこと言ってんじゃなくて、あいつどう見ても俺じゃなくてー……」
しりすぼみの言葉は、大事な部分だけ水分を含んでふやけてしまった。耳をすませても聞き取れなかった。
「え?」
「まあいいや、とりあえずこれからサークル頻繁じゃなくなるよな?」
「あ、はい。試合負けちゃったんでしばらくは暇です」
「あいつと会うこともないだろ?」
「え? あーはい、俺黒部とはサークル以外であんまり会わないですね」
「あいつと二人っきりになるようなこともないよな?」
「はい。被ってる授業のときにちょっと挨拶するくらいで……まあ基本は挨拶するだけですかね」
「ならいいや」
「なにがですか?」
「ん。メシ行こうか。奢ってくれるんでしょ?」
「うっわ覚えてるんすか。忘れててくれりゃよかったのに」
それまで腕を組み足を組みじっと真っ直ぐに平穏なグラウンドを見つめていた高岡さんは、とつぜん立ち上がった。高岡さんが表情を取り戻し、「高いもんならなんでもいい」と軽薄な発言をしてくれるのがなんとなくうれしくて、俺もつられて立ち上がった。そしてそのはなしはうやむやになってしまった。
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