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序章
昼休み、廊下の向こうから歩いてきた杉山は啓介と目が合うと、曖昧にお辞儀をしてすぐに目を逸らし、隣に歩いていた同じ野球部の友人と会話を再開した。それは、ショッピングモールで顔だけは知っている隣のクラスの生徒とすれ違った時のような他人行儀さで、啓介の背筋はすぅっと冷たくなった。
啓介も慌てて目を逸らし平常心を装ったけれど、踏み出す一歩が鉛のように重く感じた。このまま何も声をかけずにすれ違ってしまったらもう終わりだという事はわかっていた。けれど杉山とその友人が啓介の真横を通り過ぎるまで、結局一つも言葉は出ず、喉だけがカラカラになっていた。啓介は、杉山もまた、冷たい人形になってしまった、と思った。初めてではないはずなのに、身体中が動かないほど締め上げられて、心まで絞られて柔らかい部分が全て滴り落ちてしまった心地がした。
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