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杉山 3
「また明日」の言葉通り、次の日はまた休み時間の度に仲良く話すようになった。結局昨日の態度の原因が何だったのかはわからなかったが、それよりもまた啓介が笑顔を見せてくれたのが嬉しくて、疑問は日々の光の中に埋没していった。
しかし、啓介が何の前触れもなく急に冷たい態度を取るのはこの時が最後ではなかった。2回目の時は、また何か自分がしでかしてしまったかと思い背筋が冷たくなったが、2人きりの時に意を決して話しかけると、前と同じく何も無かったかのような対応をされ、次の日からは元通りだった。何も無かったような対応をされるので、何か悪い事をした?とか、そんな事は聞けず、一向に啓介の行動の原因はわからずじまいだった。
そういう事が何度か続くうちに、段々とある感情が頭をもたげてきた。
面倒くさい。
なんでただの友達の態度で一喜一憂しなければならないのか。付き合っている恋人同士なわけでもあるまいし。原因なんてそもそも無いのではないか。気まぐれに付き合わされているだけではないのか。俺だって忙しいんだからそんなものに付き合ってる暇はない。
これ見よがしに別の友達と仲良さげに話している時の啓介の目は、よく見ると光の届かない沼の底のような色をしていた。杉山は、心が砂のようにざらついたのを感じた。この人は本当はとても寂しいのかもしれない。助けを求めているのかもしれない。でも、それが何だというのだ。俺にこんな想いをさせていい理由にはならない。
今日こそははっきりと言ってやろうと、帰る間際の啓介を呼び止めた。すると啓介は、いつもの、あの芝居がかったゆったりとした動作でこちらを振り向き「どうかしたの?」と言った。
その時の啓介の不思議そうな表情を改めて目の当たりにして、杉山ははっきりと、わざとらしい、と思った。白々しい。これは作られた表情だ。
気持ち悪い。
杉山は一言、「なんでもない」と吐き捨ててその場を立ち去った。
次の日、杉山は啓介と廊下ですれ違った時、軽い会釈のような仕草をして誤魔化し、すぐに目を逸らした。目が合ってから啓介の歩くペースが少し落ちたようにも感じたが、何か話しかけられても面倒なので歩みを緩める事はなかった。
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