啓介 1

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啓介 1

 新しいクラスになった時、啓介はクラスメイトの中で、杉山と仲良くなろうと決めた。そう決めたら行動は早かった。休み時間に積極的に話しかけに行った。経験上、女子はもちろんのこと、啓介に話しかけられて嫌な顔をする男子はいなかった。どの辺に住んでるのか、文系か理系かどちらに進むつもりかなど、しつこくならない程度に自然に話しかけ、杉山が話し出したら一切遮ることなく興味ありげに聞いた。野球の話や好きな音楽の話など、杉山が話す内容には清々しいほどに興味が持てなかったが、しっかりと話を合わせた。好きでもないバンドの動画も見て、杉山が言って欲しそうな感想を伝えた。杉山は、啓介と話していて楽しいと感じていたかもしれないが、それは基本的に啓介側が歩み寄っているからだった。そうして、杉山を完全に手懐けることに成功した。あとは、頃合いを見て急に素っ気ない態度を取れば、仕上げは完了だった。  小さい頃から友達は自然とできた。啓介に興味を持った人達が向こうから寄ってきてくれるからだ。もう少し大きくなると、自分に興味がなさそうな人とも友達になれるようになった。啓介から話しかけて、彼らが喜びそうなことを話し、彼らが聞いて欲しそうな事を聞けばすぐに仲良くなれた。啓介にとって友達を作るのは、大した努力も必要なく、苦痛でもなかった。  冷たい態度を取ったその日、杉山は休み時間の度に目に見えて不安そうな表情を浮かべていた。努めてなるべく杉山を見ないようにしていたが、自分の意のままの行動をそのまましてくれる杉山を愛らしいと思った。頬は熱くなり、体は宙に浮くほど軽く感じ、教室の窓から差し込んだ光に反射した空気中の埃はダイヤモンドダストのようにキラキラと瞬いていた。極め付けに、杉山とは正反対のタイプの友達と楽しそうに会話する姿を見せつける。  もっと不安になってほしい。もっと疑心暗鬼になって、もっと嫉妬してほしい。もっと僕を求めてほしい。  そうして耐え切れなくなって、2人きりになれるタイミングを見計らって杉山が声をかけてきた時、啓介は至上の幸福を感じる。全てのピースがはまった感覚。世界史のテスト勉強中、山を掛けて覚えた東南アジアの長く覚えづらい地名がそのまま出題され、1文字も間違えずに書けた時と同じ快感だ。ゆっくりと時間をかけて振り向き、問いかける。 「どうかしたの?」
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