1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

 俺の名前はトト。黒猫だ。  元は野良猫だったが、今は家猫として気ままな生活を送っている。  俺の主人は定年をとうの昔に終えた老夫婦で、郊外の静かな場所に家を構えて毎日変わらない日々を送っている。二人とも俺のことを可愛がってくれているが、暇に託けて一日中追い回すようなことはしないのでありがたい。  今日もあくびをしながら朝の日光浴をしていると、「トト、朝ごはん、ここに置くからね」とおばあちゃんが猫缶を一つ開け、軒先においてくれた。俺は一回鳴き、おばあちゃんが離れるのを待ってから食い始める。  半分ほど食べたところで。 「おい、いるんだろ」  庭先の茂みに声を投げる。ガサガサと揺れたかと思うと、三毛猫が一匹、顔を出した。名前はミケ。昨日の夜、そこに隠れるのを見ていたのだ。まだ真冬と呼べる季節なのに、頑張る物である。今年は暖冬と呼ばれるほど暖かいのがまだ救いかもしれないが、それでも俺は絶対ゴメンだ。 「食えよ、腹っへんだろ」 「……いいんすか?」 「俺がいいって言ってんだ。大丈夫だよ」  ここの老夫婦は無闇に野良猫に餌を与えたりしないが、俺が分けて上げてるなら、と大目に見てくれる。あまりやりすぎると叱られるので、本当にたまにだが。 「じゃあ、遠慮なく」  貪りくらうのを待ってから、俺は聞いた。 「で、なんのようだ?」 「へ? あー、いやー、さすがトトさんだ。察しがいい」  察しも何もそうでもなければ、朝から俺に会いにくることもないだろう。 「トトさんの前で隠し事はできませんね いやー、本当にトトさんは」 「お前の欠点は、話が長いところだ」 「実はですね」  少々どすの聞かせた声ですごむと、すぐにミケは本題に入った。 「トトさんは、螺香、と言うお宅はご存知ですかい?」 「商店街の向こうにある、一軒家だろ。住人の顔は見たことないけど」 「ええ、その通りです。その螺香さん家なんですがね」 「ああ」 「どうも少女らしき人間がひとり、監禁されてるらしいんですよ」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!