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起
俺の名前はトト。黒猫だ。
元は野良猫だったが、今は家猫として気ままな生活を送っている。
俺の主人は定年をとうの昔に終えた老夫婦で、郊外の静かな場所に家を構えて毎日変わらない日々を送っている。二人とも俺のことを可愛がってくれているが、暇に託けて一日中追い回すようなことはしないのでありがたい。
今日もあくびをしながら朝の日光浴をしていると、「トト、朝ごはん、ここに置くからね」とおばあちゃんが猫缶を一つ開け、軒先においてくれた。俺は一回鳴き、おばあちゃんが離れるのを待ってから食い始める。
半分ほど食べたところで。
「おい、いるんだろ」
庭先の茂みに声を投げる。ガサガサと揺れたかと思うと、三毛猫が一匹、顔を出した。名前はミケ。昨日の夜、そこに隠れるのを見ていたのだ。まだ真冬と呼べる季節なのに、頑張る物である。今年は暖冬と呼ばれるほど暖かいのがまだ救いかもしれないが、それでも俺は絶対ゴメンだ。
「食えよ、腹っへんだろ」
「……いいんすか?」
「俺がいいって言ってんだ。大丈夫だよ」
ここの老夫婦は無闇に野良猫に餌を与えたりしないが、俺が分けて上げてるなら、と大目に見てくれる。あまりやりすぎると叱られるので、本当にたまにだが。
「じゃあ、遠慮なく」
貪りくらうのを待ってから、俺は聞いた。
「で、なんのようだ?」
「へ? あー、いやー、さすがトトさんだ。察しがいい」
察しも何もそうでもなければ、朝から俺に会いにくることもないだろう。
「トトさんの前で隠し事はできませんね いやー、本当にトトさんは」
「お前の欠点は、話が長いところだ」
「実はですね」
少々どすの聞かせた声ですごむと、すぐにミケは本題に入った。
「トトさんは、螺香、と言うお宅はご存知ですかい?」
「商店街の向こうにある、一軒家だろ。住人の顔は見たことないけど」
「ええ、その通りです。その螺香さん家なんですがね」
「ああ」
「どうも少女らしき人間がひとり、監禁されてるらしいんですよ」
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