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部長に「センスが古い」と言い、俺のデザインも結局ポシャらせた「めんどーなタイプ」のクライアントは、どこまでも面倒だった。 それまでの振る舞いなど忘れてしまったように、すぐにまた新しい仕事を持ちかけてきたのだ。文句をつけるなら最初から頼むんじゃねえと言いたいが、十分な報酬を提示し「じゃあよろしく」と軽く注文されれば、何も言えなくなる。 部長はフロアの隅に立ったままそれを報告するとき、右手にコーヒーを握ったまま頭を抱えていた。 「頼むからお前やってよ」 「どーせ俺がやってもまたポシャりますよ」 「いやーだってさあ……あの人をうならせそうなやつ、お前しかいないんだもん」 「中野に頼みましょうって。あいつ有能ですし」 前回よりもさっぱりと言い切る俺に、部長は眉間にしわを寄せた複雑な表情を見せながらコーヒーをすする。中野は大きな仕事を任されるようになっており、忙しい日々の中でも着実に成果をあげていた。 「中野くん、なにかと面倒な仕事任せてるからあんまり負担かけるのもなあ」 「いや、大丈夫でしょ。あいつタフだし。部長が言いづらいなら俺が言いましょうか」 「あ、おい」 俺は部長のもとを離れ、作業をする中野に近付く。気配を感じたらしい中野は作業の手を止め、俺を振りかえった。 「中野、ちょっと来い」 「え、はい」 周囲の目もあるので、俺たちは並んで会議室に向かった。白壁に囲まれた清潔な部屋に入り、簡単にいきさつを説明すると、中野はふんふんと頷いていた。 「というわけで、今回はお前に担当してもらうってのもアリじゃねえかなって俺は思ってんだけど。まあ部長の本当のところは分かんねえけどな。どう?」 「……はぁ」 「別に押しつけてるとかそういうわけじゃねーぞ、お前にとってもいい経験になるだろうし」 「あ、いや。仕事自体は構わないんですけど」 白い部屋で、中野は普段とまったく違う引きしまった表情をしている。 「深瀬さんがもういちど担当してみるっていう話にはならなかったんですか?」 「んー、部長はそうしてほしいみたいだけど、まあ俺がやってもどーせ無理だろ」 「……え?」 「俺なんてどんだけやったって、どうせたいしたもん作れないんだからさ」 だからこそ、自身の言葉になんの責任も持たずに口ばかりが動いていたのだろう。ふと中野を見ると、普段よりこわばっていたもともとの表情が、さらにきつく硬直した。なにが起こったのか分からなかった。 「なんでどうせ、とか言うんですか?」 窓もドアも閉め切られ、酸素の薄い冷えた空気がわだかまっている。中野は有能な新人なのだ。怒りをあらわにするときでさえ、声を荒げない。
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