氷のプリンス

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「よろしくお願いします。西野(にしの) (しおり)です」 「あぁ、よろしく」 目の前に偉そうに座り、書類とにらめっこしているその人は、挨拶をしたのにこちらに一瞥もくれなかった。 入社2年目にもかかわらず、何故か副社長補佐に任命された。やっと仕事に慣れ始めたと思っていたのに。年度末の辞令で無慈悲にも副社長補佐に移動。今日はその初日。 副社長、加賀美(かがみ) (ひろ)は日本有数の家電メーカー、加賀美グループのお坊ちゃまで、仕事が出来るイケメンだと名高い。誰もがその玉の輿を狙っていると先輩が話していた。 でもそんなイケメン副社長も最近大手の社長令嬢様と婚約したらしい。現在32歳。24歳の女なんて副社長からしたら可愛いらしいものよね。若手だから舐められているのかも。 こう見えて私は負けず嫌い。舐められるのはちょーっと気に食わない。 その視線の先に映る部下に必ずなってみせる。 この無愛想イケメンお坊ちゃまめ。 私は、この負けず嫌いな性格のおかげでそれなりに整った道を進んできた。県内で1番の高校に入り、それなりに勉強を頑張って難関国公立大学に合格。2年間留学していたから英語も話せる。中国語も日常会話ぐらいなら、たぶん…最近使ってないから自信ないけど。 やりたいこともなく、お給料のいい大企業を探して無事内定。それが今の会社。母も父も厳しかったから、ただ怒られないようにどれも完璧をめざした。自分の意思は関係なく。 そんな私だから特に配属の希望もなかったけど、やっと仕事に慣れて来たのに移動になったことには若干腹が立つ。でも、まぁ副社長補佐ならあまり悪いイメージもないし、お給料も良さそう。 初日から冷たい目をした副社長と同じ部屋でひたすらパソコンとにらめっこするのは疲れるっていう欠点が今発覚したけどね。 副社長が私ができるのが当たり前かのように色々な雑務を放り込んでくる。 今日は初日なんだけどなぁ。
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