よるのしじままま

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よるのしじままま

寒い夜、小さな布団に伊勢ちゃんとぎゅうぎゅう肩を寄せ合って入り、眠りにつくとこの上なく幸せな気持ちになる。しかしこの距離感が、隠すべきことを伝えてしまうことだってあるのだ。 「う……」 布のこすれる音と、うめくような声で夢から引き戻された。覚醒するか否か、視界が開くか否か、音で、気配で、それに気付いた。 「ん、はぁ……」 あ、伊勢ちゃんオナニーしてる。 布団が規則的に揺れ、その内側を想像させる。ぴくぴくと揺れる腰や足が、かすかに俺に当たったり、跳ねたりして、規則的な運動がもたらす不規則な感覚を語っている。熱く湿った息がこぼれて、ときどき俺の投げ出した腕にかかる。 「ん……っ、あ」 ここからは俺の推測。 寒いさむいと言いながら布団に入って、伊勢ちゃんを後ろから抱きしめて暖をとっていたらいつの間にか眠ってしまった俺と対照に、伊勢ちゃんはなかなか眠れずにいたんだろう。 伊勢ちゃんは優しいから、俺を起こさないようにスマホに手を伸ばすのをやめ、俺の腕をほどかないようじっとしていたのだろう。暇だったからなのか、俺が愛しさを持って抱きしめてしまったのが悪かったのか、どちらにせよ我慢できなくなって、この状態。なんだそれかわいい。かわいすぎる。 「ん、んぅ……」 ああ多分今、伊勢ちゃん先っぽのほういじってるんだ。伊勢ちゃんはいつも先端を触ったときだけ独特な息の吐き方をする。一人のときでもそうなんだなあ、と新鮮な感動を覚え、もう少しこの状況のまま、知らない伊勢ちゃんを堪能することにした。 あらゆる感覚を探ることに夢中になっていたら、その声が突然響いた。 「……高岡さん起きてるでしょ」 「……」 返事をせずに息をひそめる。なんならわざとらしい寝息まで立ててとぼけようとした俺のずるさを咎めるように、伊勢ちゃんはぐるりと振り返った。ばっちり目が合い、慌てて俺も寝返りを打って背を向けたが、もう逃げ道はない。 「バレてますよ」 「……起きてません寝てます」 「あほかこっち見ろコラ」 「……起きてません伊勢ちゃんが一人でしてるとこ盗み聞きとかほんとしてません」 「息使いが寝てるときのと違うんですよバレバレですよ」 「……さすが伊勢ちゃん俺のことなんでも分かってるな」 「どういう開き直り方ですか」 「開き直ったんじゃない感心したの」 改めて向き合うと、伊勢ちゃんはいまだ火照った顔のまま俺を睨んでいた。もっと怒っていると思っていたので、すねたような甘さの残る表情に面食らった。 「だいたい寝たふりできてると思ってんのがすごいんですよね、めちゃめちゃチンコ当たってましたけど」 「へぇ。俺が起きてること気付いてたのになんで続けてたの?」 「え? ……そ、それは……」 「俺に聞かれてるって気付いたら興奮しちゃった?」 ずっと我慢して触らないようにしていたし、自分の昂りにも気づかないふりをしていたのに、伊勢ちゃんの方から話題にされたから仕方ない。布団の中に手を潜り込ませ、伊勢ちゃんに触れる。そこには、いまだ熱を帯びて硬さを持ったモノがある。その驚きは、顔に出てしまったらしい。 「な、なんですか……」 「いや、イったのかとおもってたから」 「え?」 「俺に聞かれてること気付いてるのにずっと続けてたでしょ、だからイってひと段落してから声かけてきたんだと思ってた。まだ途中だったんだね。先っぽとろとろ」 きっと絶頂も遠くないだろう、昂ったモノをぎゅっと握りこむ。伊勢ちゃんの腰がはねるように揺れて、鳴き声みたいな声が漏れた。 「んぅ……!」 「もしかして、一人じゃイけなくてもどかしいから俺に声かけたの?」 すねたような顔が、甘やかされた猫みたいにとろけた顔に変わる。指でするすると筋を撫でたら、もっとふやけてしまった。 「っあ……違います……!」 「俺に声かければこうやって襲い掛かってくるもんね。伊勢ちゃんいつからそんな計算高い子になっちゃったの?」 「違うって言ってるじゃないですか、そんな自分勝手な考え――……!」 「じゃあ、ご要望にお応えしていっぱい気持ちよくしてあげるね」 「だから、やめ……っ」 「やめたい? 気持ちよくしてほしくない?」 「……っ!」 「どっち?」 「…………してほしいです……」 分かり切った答えをしっかり聞いて、答え合わせをする俺は優しいと思う。布団を剥いで、限界も近い性器にしゃぶりつけばすぐさま甘い声がもれる。快感と眠気とその他いろいろに犯された伊勢ちゃんが、精一杯考えた計算や駆け引きや、すぐにばれる嘘に花丸をつけてあげたい気持ちだ。
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