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プロローグ
「え、それはどっちも無理」
あの日、小山内梨沙は苦虫を噛み潰したような顔を見せつけた。
「絶対に無理だよ。どっちか選べなんて無理」
「まぁそれはそうなんだけどよ、」
この問いを口にした川谷光は、嫌がる彼女の反応に嬉しそうに食い下がる。
「いやいや、どう考えてもカレーでしょ」
「え?」
「うんこ味のカレー」
私――桐生美織は、真顔で言い放った。カレー味のうんこか、うんこ味のカレーの二択。これに関しては間違いなく断言できる。
「どっかのテーマパークにさ、腐った卵味のグミとかあんじゃん」
「ちょっとマジでやめよ、この話」
梨沙がげんなりと声を出した時、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
ほっと安堵の表情を浮かべた彼女は、逃げるように斜め前方の自席へと戻った。それを見届けてさっと腰を浮かせ前へと向き直る光をも目で追った私は、不完全燃焼だった。
元はと言えば『究極の選択』は彼女が始めた話題なのに、選択した自分だけが非難されるのも気に食わない。
それに……どう考えても、カレーでしょ。
所詮、カレーなのだから。味が最悪なだけだ。――大事なのは、その本質が何なのか。
そんな話など聞く気のないだろう二人の背中に、小さくため息が溢れた。
鬱憤を晴らすように、私は視線を逸らせた。二階の校舎の窓から見上げた空は青かった。
――ジ・アルティメットチョイス――
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