うちの犬は気付いてる

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うちの犬は気付いてる

 かたかたかたかた、と音がした。皿が揺れて小刻みに床を叩く音。 「いつも思っていたが本当にこのご飯は美味い。こんなに美味いご飯が作れるなんて飼い主は天才だ。さぞ膨大な時間と研鑽を重ねてきたことであろう」 「喜んでもらえて嬉しいよ」  濡れた足をタオルで拭いた後、ホームセンターで一番安いドッグフードをがつがつと食べながらポチは言った。知らなくていい現実というのは確かにある。  大皿に盛られたドッグフードをぺろりと平らげたポチは隣に置かれた銀皿から水を飲む。口元に覗く赤い舌を見ながら、饒舌、という言葉を思い出した。 「そういえば今更だけど、なんで急に喋れるようになったんだろうね」  すっかりその謎について考えるのを忘れていた。喋る以前にツッコミどころが多すぎたせいだろう。いやそんな大事なことより優先されるツッコミがあるのかよという話ではあるけれど、ポチのキャラがそれほどに強烈だったのだ。  しかし原因については本当にわからない。昨日寝るまでは本当に普通の犬だったのに。昨夜私の知らないところで宇宙人に改造でもされたのだろうか。 「おや、そんなの決まっているだろう」 「え」  ポチが当然のように言うので私は戸惑う。しかも私に対して「飼い主は何故気付かない?」とでも言いたげな口調だ。 「心当たりがあるの?」 「心当たりと言うより、まあそうだな。今日は私にとって忘れられない日であり、忘れたい日でもあり、忘れたくない日でもある。神様がプレゼントをくれるとしたら、まあこの日だろうと見当をつけただけだ」  ポチはもう一度水面をひと舐めして生命を潤す。そして口の周りに幾つかの水滴をつけたまま言った。 「吾輩がこの家に来て、今日でちょうど五年なのだよ」
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