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1,嵐山海里
【無人島宝探しゲームへようこそ!この島に隠された、貴方にふさわしい宝を探してください!】
アナウンスが流れ、会場のボルテージが一気に上がる。イベント会社「蒼龍」が小さな無人島を買い取り毎年行う大人気イベント、宝探しゲーム。島のいたるところに様々な宝が隠され、早い者勝ちで見つけるイベントだ。
ちゃちな物だとおもちゃの宝石、そこそこ良いものだと商品券など、もっと良いものは海外旅行や骨とう品などがある。どんな宝なのかは見つけてみてのお楽しみ、昨年見つからなかった宝はそのままにしてあるので、それを見つけても獲得となる。つまり、見つからない宝が多いと翌年見つかる宝も増えるのだ。
このイベントは今回熱狂している。何故なら蒼龍が公式発表したのだ、「昨年は歴史的価値のある宝と、金銭価値が高い宝が見つかっていない」と。昨年の時点で発表すればまだ宝を探させろ、とトラブルになりかねないので宝の情報は翌年持ち越すルールとなっているのだ。
参加者は抽選で選ばれた50人が張り切って参加した。一人参加のみ、代理人や連れは不可。例え参加者に幼い子供がいたとしても乳幼児の連れ込みは認めていない。ルールを敗れは即失格だ。
宝探しと言っても参加者のうち半分ほどは本物のトレジャーハンターだ。専用の器材などの持ち込みも認められているためえりすぐりの物を持ってきている。爆発物や危険物はもちろんNGだが、開始前の手荷物検査を通った物は基本的に使える。
トレジャーハンターたちの息は荒く、ハイキング感覚できゃっきゃと喜ぶ奴らに冷たい視線を送り舌打ちまでする奴もいた。楽しむはずのイベントなのに、異様な熱気と殺気に包まれたイベントはいよいよ開始となる。
1、嵐山海里
開催が8月だったので夏休みを利用してきた海里はよし、と気合を入れる。まさか小学生の自分が当選するとは。とにかく怪我だけしないようにね、宝を見つけなくても思い出作りしておいで、それが宝物になるから、と心配性の施設の先生たちに元気にいってきまーすと手を振ってきた。
産まれて間もない状態で公園に置き去りにされていて、身寄りがなく児童養護施設で暮らす海里にとって初めての一人旅だ。持ち物は基本自由、と案内書に書いてあったが何を持っていけばいいのかわからなかった。何故ならイベント主催側でかなり豊富に道具を用意してくれている。スコップ、刷毛、バケツ、懐中電灯、キャンプ用品一式……他にも何かと便利そうな物はすべて準備しており貸出自由なのだ。食事も出るし風呂トイレ、休憩所まであるらしい。さすがに金属探知機などの機材はないが、そういう物がなくても頑張って探せば見つかるようにはなっているということだった。
宝がどんな大きさのものなのかわからない以上、準備のしようがない。一応施設の職員がネットで調べてみたが参加した人のSNSでは割と何でもそろってるから、ガチ勢でないなら身一つで行けばOKと書いてあった。
海里は悩んだ末、救急セットとメモ帳とカメラだけ持っていった。そのため鞄は小さめだ、ハンターたちから見たら子供がハイキング気分で参加しているようにしか見えないだろう。実際そうなのだが。
このイベント、いろいろと噂や都市伝説のようなものが絶えない。その真相を確かめて夏休みの自由研究で発表しよう、というのが海里の目的だったりする。
噂を調べてくれたのは同じ施設の子供たちだ。一生懸命調べてくれたので、島に着いたら見ようと噂を書いたメモ帳をずっと開いていなかった。
「えーっと、噂の一つ目。化け物が封印されていて、参加者に甘い言葉をささやいて封印を解かせようとしている……まあ、ありがちありがち。二つ目、発見されていない超古代文明が眠ってる。これ凄いな、あったらいいな。三つ目、何でも願いを叶える宝箱がある。どっかで聞いたようなやつだな。四つ目は、うわ!?」
メモ帳を見ながら歩いていたので何かとぶつかってしまった。謝ろうと顔を上げたが、ものすごい剣幕で男性に睨まれて声が出なかった。
「テメエこらぁ! クソガキ! てめえがぶつかったこれは100万するんだぞ! 壊れてたら弁償してもらうからな!」
「ご、ごめんなさい」
「謝って済む話じゃねえんだよ!」
怒りながら男は機材をチェックし始める。どうしよう、壊してたら。先生たちになんて言おう、とドクンドクンと鼓動が早くなる。
「うっざ。子供相手にガチギレとか恥ずかし」
後ろから声が聞こえる。振り返ると立っていたのは若い男性だった。大学生くらいだろうか、ラフな格好でこちらもハイキング仕様の格好なのでガチ勢ではなさそうだ。
「ああ!?」
「マナー悪いと通報するよおっさん、運営局にトラブルメーカーって認定されたら失格なの忘れた? この子ちゃんと謝ったじゃん。それにぶつかったの、機材じゃないでしょ」
その言葉に怒り狂っていた男が一瞬言葉に詰まる。それを見て若い男はふっと小さく笑うとそうだ、と声を弾ませる。
「じゃあさ、この子が最初に見つけた宝、どんなに高価な物だったとしても必ずアンタにあげるって条件でチャラにしない?」
「何でテメエが仕切るん……」
「ちなみに俺が運営本部の人間だから、今ここで認定してもいいけど。トラブルを未然に防ぐのも仕事だから」
最後の一言はワントーン低い声でへらへらした雰囲気もない。スタッフ証明書まで見せられ、怒っていた男はチっと舌打ちをし、馬鹿どもに構ってる暇はねえんだよ、と吐き捨てて機材を持って歩いて行った。その様子を呆然と海里は見つめ、はっとして慌ててお礼を言う。
「あの、ありがとうございました」
「ああ、いいのいいの。ああいうの結構多くてトラブルたくさん起こるから、それを取り締まるのが俺の仕事。ま、君もよそ見は禁物。ここ無人島だから、足場整備されてないからね。転ぶと怪我するよ」
「はい、気を付けます」
言いながら男は近寄ってきて海里のメモを見てへえ、と声を弾ませた。
「こんな噂あるんだ、面白いね。君は真相確かめるのも目的?」
「はい、自由研究に」
「自由研究! そっか~、そういう楽しみ方してもらえるとこっちも嬉しいよ。興味が湧いたから聞いていい? 君はどんな宝が見つかるとうれしい?」
先ほどの男に放った冷たい雰囲気とうって変わって優しい年上のお兄さんという感じに海里も安心して答える。
「うーん、正直あんまり考えてなかったです。見つかってみてどうかな、って感じで。噂に聞くおもちゃの宝石だったとしても嬉しいと思います、自分で見つけられれば」
「そっか、良いことだよ。っていうか、ごめんね。君が最初に見つけた宝はあのオッチャンにあげなきゃいけないんだった」
「いいですよ」
「君、大人びてるなあ。子どものうちは我儘たくさん言っておきな。あ、このバイトもう少し大きくなったら参加してみてね、スタッフとして。結構面白いよ」
その後何となく談笑をした後、スタッフの青年と別れた。あ、名前聞き忘れた、と振り返ると青年の姿は見当たらなかった。イベント終わるときに会えるといいな、と思い気を取り直して立ち止まったままメモを見る。
「四つ目、実はイベント会社の偉い人がスタッフのふりをして参加していて、参加者をひそかに評価している、高い評価の人は宝のヒントをもらえる……」
再び青年がいた方を振り返る。
「まさかね……?」
ぽつりとつぶやき、気を取り直してとりあえず散策して見ることにした。
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