冷たいあの人

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 人は嘘をついてしまう。  ネットでも、リアルでもそれは同じことだ。  僕は今日、初めて会った彼女に優しい嘘をついた。  僕にはとっくに分かっていたのだ。  僕の愛している人には裏切れない家族がいるんだということ。  彼女が自分より年上で、高校生の娘を持った母でもあるんだということ。  会話をしていても違和感には気づいたし、あの人は優しかったから元々嘘が上手じゃなかった。  会いたいと言ってあの人に断られた後、僕はあの人に内緒で会いに行った。  一方的に顔を見て帰ってきただけだから、あの人の方には会ったという認識はなかったと思う。  娘と友達のように仲良く歩いていた。あの人は笑っていた。それもあの人の本当の顔なのだろうし、僕に寂しいと甘えていたのもあの人の本当の気持ちなんだと思う。家族がいたって、寂しい人は寂しいのだ。全部が全部嘘なんかじゃない。人間はそんなに単純じゃない。  僕はあの人を僕なりに理解していたつもりだ。全てをひっくるめて僕はあの人を愛していた。年なんか関係なかった。  ただ、あの人の病気のことだけは知らなかった。  やはりあの人は冷たい。  そんな大事なことを僕に黙って逝くなんて。    蓋の開いていない缶コーヒーが手からずり落ち、電車の床で音を立てた。  ずっと堪えていた涙が、今ようやく僕の頬を伝い落ちていった。  
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