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第一章 海
心地良いような、心地悪いような。
これから何か楽しい事が起こりそうな予感がするようで、どうせ何も起こらないだろうと思ったり。
彼をそんな気持ちにさせる、好きなようで嫌いな“夏”の始まり。
岸本悠は、昼間っから缶ビールを片手に海辺を歩いていた。
今日は居酒屋のバイトが休みだった。
かと言って特に予定も無く、遊ぶ友達もいなかった。
しかし家でゴロゴロして過ごすには勿体無いくらいには体力を持て余していた。
彼はまだ25歳。
体力と時間だけは無駄に持て余していたのだ。
しかし残念ながら、お金だけは持ち合わせていなかった。
どこかへ行きたい気分だった。
だからとりあえず電車に乗った。
行き先なんてもちろん決まっていなかった。
電車に揺られ窓の外を眺めていると海が見えたので、とりあえずそこで降りた。
駅のコンビニで500mlの缶ビールを買い、それを飲みながら、砂浜をあてもなくただゆっくりゆっくりと歩いていた。
「あー!暑っちぃー!でもビール旨めぇー」
ごくん、ごくん、と喉を鳴らしながら海辺で飲むビールは格別だった。
ましてや今日は平日。
平日の昼間からこんな贅沢をしているなんて俺はなんて幸せ者なんだ、と優越感に浸っていた。
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