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過去に行く方法が発見されたのは、いまからちょうど十年前のことだ。
人々はタイムマシンの完成だとわき立ったが正確にいえば、時間をさかのぼることしかできない不完全なタイムマシンだった。
しかし、これ以上のタイムマシンは作ることができないのではないかと、私は考える。未来に行くことができるなら、未来の技術を今の時代に持ち帰ることが可能なはずで、そうした場合、その技術を生み出すはずであった人から、技術を生み出す機会を奪ってしまう。
それは未来改変とでもいうべき、ある意味では過去を変えるよりもよっぽど厄介な事象を引き起こしかねない。今の時代ばかりが発展し、肥大し、未来の可能性を食いつぶしていくという。
だから私は一つの案を打ち出した。
革新的な技術を生み出す人間を、タイムマシンで過去に送るという案だ。未来から搾取するのではなく、過去を充実させることで今も未来も、より豊かにすることができる。
しかし、これについても懸案があった。
過去に行く人の、人権的な問題だ。
過去に行くために家族や友人と別れ、過去の時代でその後の人生を過ごさねばならない。
その条件に好意的な人間などほとんどいない。
だからこそ、やはり未来へと時間を進める方法が必要だった。タイムマシンに頼らない方法で。
今、目の前には、一人の男が横たわっている。
過去へ人材を送る私のプロジェクトの第一号だ。この男が過去へもたらす技術はコールドスリープ。人間を凍結保存して、一定期間の後に蘇生する技術。
この男の目が覚めることは、過去と現在の交流が容易になることを意味する。目を覚ましたとき、世界は、新しい技術に満ちた世界に変貌を遂げることだろう。
その時を信じて、私はこの巨大な凍結保存装置を前に一人で待ち続けている。
成功すれば、私の名は、人類を大きく前進させた科学者として未来永劫残るだろう。
願わくば、私が死ぬまでにその時が訪れるように。そう思って待っている。
凍結保存装置の前には二人の科学者が立っている。
「大丈夫なんでしょうかね。安全性も不確かなこの装置の被検体になるだなんて」
「この装置の完成にずいぶんこだわりがある人だったからな。歳を考えると、ただ待つだけではいられなかったんだろうな。目が覚めるまでは、せめていい夢でも見ていてくれると、こっちも罪悪感が軽くなるんだが」
二人の間に、しばし沈黙が下りる。
「さあ戻って続きをやるぞ。いつまでも眠らせとくわけにはいかないからな」
「はい。これが完成しないとプロジェクトが始まりませんからね」
二人が装置のある部屋をあとにする。
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