咲くら朔夜<④>

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――ッ! 瞼を開いた場所は、今夜もまた、大きな桜の木が傍らに立つ店の前。 どうして俺はここに居るんだ? 道を進んで、ここまで辿ってきた記憶がすっかり抜け落ちている。 バイト先を出て、鞄を下げて、アパートまでの帰り道を一人で歩いていた筈なのに。 真っ赤な絨毯。 さっきの映像はいったい何だ? 白昼夢か。いや、今は昼ではない深夜。 夢を見る為には眠る必要があるが、眠った記憶もなければ眠ったと云う自覚もない。 (何がどうなっているんだ……) 胸が苦しくて、手に力を入れて押さえ込む。 夜になると必ず自分はここにいる。 太陽の陰が一切見えない暗闇の時間。周囲の音が消えてなくなった真夜中に。 部屋にも帰らず、寄り道をして。 何度も俺がここへ来る理由。 それが本当に『探し物』だと云うなら、俺は何を『探しに』来ているというのだ。
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