咲くら朔夜<④>

6/6
前へ
/20ページ
次へ
「これを君に返すよ」 「ぁ……、ぁ……」 「人の魂は、その死後ある一定期間現世に留まる。その期間に人は死を自覚し、大切な人たちに別れを告げて、黄泉の世界へ旅立っていく」 ――朔夜くん。 君が最後に見た景色が桜の花だったお陰で、僕の店に桜の木が立った。 思い出したかい? 君の死の記憶。 君が失くした探し物を、僕は君に今この場で返すよ。 万年筆、時計、陶器に古い本、骨董品のように見えるそれらの遺物に宿る価値は、それらを手にする客自身にしか答えは用意されていない。 「あ……っ、ア"ァッ」 声が喉を突き破るように激しく割れて耳を裂いた。 しかしどれだけ叫んでも、一度失ったものはもう二度と戻らない。 『探し物』を前にして微笑む充希さんの背後。 桜の花は変わらず風に舞い、 いつしか俺はその中に紛れ、再びここを訪れることはなかった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加