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「これを君に返すよ」
「ぁ……、ぁ……」
「人の魂は、その死後ある一定期間現世に留まる。その期間に人は死を自覚し、大切な人たちに別れを告げて、黄泉の世界へ旅立っていく」
――朔夜くん。
君が最後に見た景色が桜の花だったお陰で、僕の店に桜の木が立った。
思い出したかい? 君の死の記憶。
君が失くした探し物を、僕は君に今この場で返すよ。
万年筆、時計、陶器に古い本、骨董品のように見えるそれらの遺物に宿る価値は、それらを手にする客自身にしか答えは用意されていない。
「あ……っ、ア"ァッ」
声が喉を突き破るように激しく割れて耳を裂いた。
しかしどれだけ叫んでも、一度失ったものはもう二度と戻らない。
『探し物』を前にして微笑む充希さんの背後。
桜の花は変わらず風に舞い、
いつしか俺はその中に紛れ、再びここを訪れることはなかった。
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