進展?

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進展?

「なぁんか最近の藤倉くん、雰囲気が変わったのよねぇ」 そう溢しながらテレビを見つめる母。 熱心に見つめるその画面には最早当たり前のように、彼が居た。 『超人気俳優、藤倉一織!その秘密に迫る』…?画面の右上にはそんな事が書かれていて、スタジオには長い脚を組んで椅子に座る彼が居た。あの時の雑誌の表紙みたいだ。 好きな食べ物は? 趣味は? 休みの日は何をしていますか?などなど。 司会の人から色んな質問を投げられ、一つ一つそれに答えていく彼には律儀な印象が見受けられる。俺の友達にちょっと似てる気がする。 名前も一緒で声も似てるから、そう思っちゃうだけかも知んないけど。 それにしても、雰囲気が変わったってどういうことだ?いつもなら芸能人のことなんてあまり興味がないのだが、彼に関してはやけに気になってしまった。 毎日母が騒ぐからかも知れない。いい加減親父の相手もしてやって欲しい。ちょっと寂しそうだぞ。 それはまぁいいとして、どの辺が変わったのか母に訊いてみた。いつもそんなことに興味を示さない俺の唐突な質問に驚いたのか、一瞬きょとんとしながらも母は「そうねぇ」と考え込むように腕を組んだ。 曰く、前よりも雰囲気が丸くなったとのこと。 以前はそうじゃなかったのかな。確かにクールな印象だけど、今のインタビューもクールな感じがする。 それでもファンの目からすれば変わったことがあるのかな。 「明らかに変わった!って感じじゃないのよ。何ていうのかしら…こう…。前は目付きが鋭く見えることが多くて、それが人を寄せ付けないって感じでクールで格好良かったんだけどね?あ、そうそうクールと言えば来週から始まるドラマの」 「母さん、本題本題」 「あらゴメンなさい。で、藤倉くんたら丸くなったというか…。ふとした瞬間に優しいカオするようになったのよねぇ。ネットでも騒がれてるわよ?恋人でも出来たんじゃないかって!」 「へぇ」 「まぁ私は恋人が居ても関係ないけどね!あーんな格好良い俳優他に居ないんだもーん!」 母さん、後ろ後ろ。親父のカオも見てあげてくれ。頑張れ親父、相手は芸能人だ。母はミーハーなところがあるから、別に今に始まったことじゃないし。 それよりも、俳優の藤倉に恋人かぁ。 どうでもいいな。どのみち俺には関係のないことだし…。 自分から訊いておいて、俺は自分勝手にそう結論付けたのだった。 『ところで藤倉さん、最近雰囲気が変わったとファンの方から言われているようですが、何か私生活に変化でも?』 『あぁ、まぁ。…そうですね、人生を変えるようなことがありました』 『まぁ!それはどのような?もしかして、恋人…?』 『ははっ、そんなんじゃないですよ。…まだ、ね』 「きゃあああっ!!!聞いた!?優臣っ!!ねぇっ!!!」 「いや、うっさ…」 母の反応は正しくスタジオの観客、そしてテレビの前の彼のファン達の反応と同じだったらしい。 インタビューのラストのラストで俳優、藤倉一織が漏らした一言は翌朝から早速ネットニュースになり、報道番組でも騒がれ、ファンの間に様々な憶測を飛び交わす事態になった。 あの藤倉が片想いか、腹黒の藤倉くん最高!などなど。俺のSNSにもそういう話題が飛び込んでくる。芸能人ってやつは大変だなぁ。 「な、お前もテレビ見てたか?うちも母さんがめっちゃ騒いでて大変でさ」 「そっかぁ。澤くんもアレ観てくれてたんだね」 「おう、成りゆきで…。てか、観てくれてたって?」 またあの違和感。 まるで自分が出演してたみたいな言い方だなぁ。 …いや、まさかな。 「え、いやぁ!俺も彼のファンだからさ、嬉しいなって!」 そっか、そう言やそうだった。自分と同じ名前の俳優のファンだなんて、不思議な偶然もあるもんだ。 「まだってことは、片想いなのかな」 「…そうだね、そうみたいだね」 「よく分かんないけど、上手くいくといいな」 「うん。だいじょうぶだよ。きっとね」 酷く穏やかな声はやっぱり彼に似ているが、そんなことはもう関係なく俺の心を落ち着かせる魔法を纏うようになっていた。 「澤くん」 「どした?」 「名前呼んで…俺の」 「名前?いいけど」 「澤くん」 「うん。藤倉」 「もっかい」 「藤倉」 「下の名前も」 「下の名前?聞いたことあるっけ」 「いおり」 「いおり?」 「うん。そうだよまさおみくん」 「藤倉…いおり」 「うん」 あれ、まさかとは思うけど…。 「なぁ藤倉…変なコト言うけど」 「うん」 「お前って…」 「…うん」 「あの俳優の藤倉って人と完全に同姓同名だったんだな」 「え、あー。うん、まぁね」 「すげー偶然」 「ねー」
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