身バレ前の小噺

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身バレ前の小噺

大学の新井先輩は、俳優藤倉の熱烈なファンだそうだ。 そんな先輩が、ある日食堂で深刻そうな顔で座っていた。 「なぁ澤、知ってるか」 「何でしょう」 「藤倉くんに…す、好きな人がいるらしいんだ」 「あぁ、俺の母も騒いでました」 「お前はどう思う」 「はい?どう思うって言われましても…」 どうでもいいです。 会ったことない他人の色恋沙汰なんて、正直至極どうでもいいです。何て言える訳ないしなぁ。 俺がうんうんと考えていると、新井先輩が重い口を開いた。 「あの…藤倉くんが。とうとう恋、かぁ」 「何だか親目線な言い方ですね」 「そうかも知れない。実際彼が見初めた相手なら素敵な人だろうし、応援してるよ」 「そうですか」 応援するんだ。 母も似たようなことを言ってたし、SNSも炎上するどころか応援ムードの方が強かったなぁ。 そりゃあ一部悲しんだり怒ったりと過激派のファンもいるようだったけれど、大体は応援してるファンの方が多いイメージだ。 愛されてるんだなぁ、俳優の藤倉って人。 「っていうことがあってさ」 「ねぇその先輩って大学の?同じ学部?いくつ上?」 「え、そんなに先輩のこと気にな」 「なる」 早い。食い気味だなぁ。 まだ最後まで言えてないぞ。 「とにかくすげぇ愛されてるんだなって思ったよ、お前の推し?の俳優さん」 「うん。ありがたいね」 「俺はよく分かんないけど、俳優の藤倉さんの恋が叶うといいなって、先輩も言ってた」 「おれもそう思う」 「お前も応援するんだな。いいファンばっかりじゃん」 「うん。すごいうれしいよ」 「そっか。俺も、応援しようかなぁ」 「ほんと?澤くんが応援してくれたら百人力だな」 「ははっ、馬鹿だなぁ。でも本当に、すごいと思うからさ」 「うん。絶対絶対、叶えてみせるよ」 「お前が?」 「まぁね。だから澤くんもよろしくね」 「?まぁ俺に出来ることならいいけど」 「きみにしかできないよ。ね、」 「ん?」 あいしてる、なんて。 友達に言うような言葉じゃないのに、電話の最後にこいつが必ず言うようになったのは一体いつからだったかな。 さすがにちょっと照れちゃうじゃん。 「…恥ずかしい奴」 「まぁ、叶えるためだからね。あと溢れ出ちゃう」 「ふふっ、何だそれ」 やっぱりこいつはちょっとおかしい。変な奴。 だけど話してると、すごく楽しい。 いつか会ってみたいなぁなんて、生で言ってくれないかなぁなんて、思ってしまったのは俺だけの秘密だ。
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