16人が本棚に入れています
本棚に追加
「それに、魔族は女子もムキムキなんだぞ、可愛くない!私は人間の女子の方が好きだ、絶滅させてたまるか!」
くわっ!と魔王様は必死になって叫ぶ。
「人間は男だって小さくて可愛い見た目だ、見ていてほっこりする!あと魔族よりずっと働き者だぞ、二十四時間働くとかほんと尊敬するわ!セクハラパワハラはちゃんと規制する法律作ったし、飲み会で上司の黒歴史暴露したりしないし、二年前に締切だった領収書今更出してきて通せとか脅さないし、十年前に賞味期限切れて腐ってる漬物を魔王城の冷蔵庫につっこんだまま放置したりしないし、自分の机の周囲にキノコ生やして汚染させたりしないだろ!?あ、あと魔王にトイレ掃除おしつけて自分はゆうゆうと女の子とデートしたり、魔王に大量の書類押し付けるだけ押し付けて自分は定時で帰ったあげく、連休前にさらに三連休で有給休暇取ったりしないだろ!!」
「お前の職場どんだけブラックなの!?」
「まだまだあるけど訊きたいか?連中わざとタイムカード切らないで帰るくせに、私のタイムカードだけ切って帰るんだぞこっちはまだ残業してるのに!なんで私が残業してないことになってたあいつらは残業しまくってることになってるんだよ魔族の神様もちゃんとチェックしろよとか思わね!?」
「あ、理解。ていうかお前さらに上に上司もいたのね???」
「その上司もパワハラとセクハラの神だぞわかる?」
「うわぁかわいそう……」
なんというか、気の毒すぎる。ブラック企業と聞いてひとしきり思いつくようなことは全部実行されてそうな勢いである。
正直、コタツは占拠されるし、いつか彼女(できる予定)と一緒に寝るつもりで買ったペア布団は持っていかれるしで大迷惑なのだが。
よくよく考えると、魔王=中間管理職が持っている情報というのは貴重である。魔王と魔族の殲滅を達成すれば、勇者は一生遊んで暮らせる金が王様から報奨金として出されることになっているのは間違いない。こいつを仲間に引きこめば、このあとの討伐が滅茶苦茶楽なことになる、のは確かなことではなかろうか。
「……魔王様」
俺は真剣な顔で、魔王に告げた。
「一日三食、衣食住保証付き、実働八時間、各種社会保険つき。……で、俺に雇われる気ない?ボーナスも出すけど」
「あいつら全部ぶっ飛ばせばいいんだな了解」
「即答か」
速報。勇者パーティ(一名)に、新しい仲間が加わりました。名前は“魔王様”です。
なんかもう、クソゲーになった気がしないでもないが、楽できるならいいってことにしよう。世の中、深くつっこんだら負けである。
最初のコメントを投稿しよう!