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ぽろっと温かいものが浅緋の頬を伝って、ぱたぱたっと膝の上に、雫がこぼれた。
「浅緋さん……」
「ごめんなさい。なんでかしら?」
一度涙が流れ出すともう止まらなくて、きっと片倉が困っているだろうからなんとかしたいのに、まるで壊れてしまったかのように、ポロポロとこぼれてきて止まらないのだ。
どうしよう……。
するとテーブルの向こうにいた片倉が、席を立った気配がした。
気を使って1人にしてくれるのかな。
浅緋がそう思ったら隣に来て、膝をついた彼は浅緋にハンカチを差し出した。
「どうぞ。」
「あの……でもっ、」
「泣いている婚約者をそのままになんてしておけません」
そう言って片倉は浅緋の顔を優しく覗き込んだ。
その整った顔に浅緋は胸がきゅっと締め付けられるのを感じた。
婚約者……この人が……。
「失礼します」
そう言って、片倉は泣いている浅緋の頭をそうっと胸に抱き寄せてくれた。
「思い切り泣くのも、悪くないですよ。ハンカチがわりだと思って。どうぞ」
浅緋は人の胸で泣いたことはない。
けれど、こんな風に包み込まれることはなんて安心感があることなんだろう。
「っふ……うぇ……」
声を押し殺して泣き続ける浅緋を、片倉は何も言わずに静かにそっと抱きしめてくれていた。
身体中の水分が半分はなくなるくらい泣いたのではないかと思ったのだが、いつの間にか涙は自然に止まってきていた。
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