2.桜の思い出

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けれど先程触れたその優しさで、浅緋の片倉への印象はとても良いものだったから片倉の事は怖くはない。 「本当は、……お渡しするのを迷ったんですが、受け取って頂けますか?」 片倉がポケットから出したのは、手の平に乗るくらいの小さな箱。 彼がそれをそっと開けると、キラッと光る指輪が入っていたのだ。 「とても綺麗だわ。」 「婚約指輪です。」 驚いた浅緋は片倉の顔を見た。 柔らかく微笑む片倉に浅緋の胸はまたどきん、と大きく音を立てて、思わず俯いてしまう。 「あ……りがとうございます」 小さな声でお礼を言うのがやっとだった。 片倉はそっと、浅緋の手を取ってその左手薬指にキラリと光る指輪をつけてくれる。 手を取られているその間も、また鼓動がどきどきと音を立てるので、こんなに側にいたら、片倉に聞こえてしまうのではないか、と浅緋は思う。 けれど、その時極々小さなその声が浅緋の耳に入ったのだ。 浅緋は思わず顔を上げたけれど、片倉はいつものように優しい表情だったから、気のせいかと思ったくらいだ。 ──ごめんなさい。 そう聞こえた。 あまりにもその場には相応しくない言葉だし、きっと気のせいだろうと、浅緋は思った。
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