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「え?!あ、あ……」
ベッド……そう言えば、考えていなかった。
部屋を用意してくれていて、そこにベッドがあるのだから、違和感などなくここに住むんだ、と思っていただけで。
けれど冷静に考えたら片倉は浅緋の婚約者であり、結婚する以上はそういう事だって当然ある、となぜ考えなかったのか。
「あの……私……」
動揺した浅緋はうつむくことしかできない。
顔がとても熱いし、どうしたらいいのか分からなかった。
「冗談ですよ。無理しなくていいんです」
「すみません」
浅緋はずっと女子校を進学してきて、卒業してからも父の会社に入社してしまったので、交際の経験がないのだ。
素敵だと思える人がいても、あの父とやっていけるのだろうかと思うと交際に踏み切ることはできず、そのまま来てしまった浅緋である。
片倉のことは怖くもないし、素敵だと思う。
けれど、その先をどうしたらいいのか浅緋には分からないのだ。
「浅緋さん」
そうやって呼ばれることはとても嬉しいのに。
「バスルームをご案内しますね」
片倉の穏やかで優しい笑みはいつもと変わらない。
まるで、さっきの一瞬のことなどなかったみたいだ。
「はい」
浅緋はバスルームを案内するという片倉の後ろについていった。
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