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とにかく顔の広かった父のお葬式は盛大で、人に溺れるようになりながら、取締役達や、秘書や会社の総務の手を借りて、ようやくお葬式を済ませたような次第である。
帰ってきてやっと、息が継げるようになった気がした浅緋だ。
その時、ピンポンと玄関の呼び鈴がなる。
来客については、お手伝いさんの澄子さんが出てくれるので、特に気にしていなかった浅緋だったのだが。
「奥様、お嬢様……」
澄子さんは困ったような顔でリビングに戻ってきた。
「お客様なの?今日はお断りして下さる?」
母が疲れた顔で首を傾げる。
「ええ。一旦お断りしたんですけど、ご主人様からの文書を預かっているので、どうしてもお会いしたい、と。」
「文書?」
はい、と答えた澄子さんは手に持っていた封筒を母に手渡す。
「あの人の字だわ。」
横から浅緋も覗いてみた。
間違いなく父の字だ。独特の癖があるのですぐ分かる。
その封筒にはいたく大きな字で『遺書』と書かれていた。
父らしくて笑ってしまう。
弁護士からは正式な遺言書があることは聞いていた。後日それについて話があるとも聞いている。
しかし、その文書はどうもそれとは違うようだ。
「どなた?」
穏やかな母の声が澄子さんに尋ねる。
「それが……」
澄子さんはおずおずとお客様から預かってきた名刺を差し出した。
『グローバル・キャピタル・パートナーズ
代表取締役 片倉慎也』
「浅緋、分かる?」
浅緋はふるふるっと首を横に振った。
父の手伝いのため会社には行っていたけれど、浅緋にはたいした仕事が与えられていた訳ではない。
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