1.雪降る夜に

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とにかく顔の広かった父のお葬式は盛大で、人に溺れるようになりながら、取締役達や、秘書や会社の総務の手を借りて、ようやくお葬式を済ませたような次第である。 帰ってきてやっと、息が継げるようになった気がした浅緋だ。 その時、ピンポンと玄関の呼び鈴がなる。 来客については、お手伝いさんの澄子さんが出てくれるので、特に気にしていなかった浅緋だったのだが。 「奥様、お嬢様……」 澄子さんは困ったような顔でリビングに戻ってきた。 「お客様なの?今日はお断りして下さる?」 母が疲れた顔で首を傾げる。 「ええ。一旦お断りしたんですけど、ご主人様からの文書を預かっているので、どうしてもお会いしたい、と。」 「文書?」 はい、と答えた澄子さんは手に持っていた封筒を母に手渡す。 「あの人の字だわ。」 横から浅緋も覗いてみた。 間違いなく父の字だ。独特の癖があるのですぐ分かる。 その封筒にはいたく大きな字で『遺書』と書かれていた。 父らしくて笑ってしまう。 弁護士からは正式な遺言書があることは聞いていた。後日それについて話があるとも聞いている。 しかし、その文書はどうもそれとは違うようだ。 「どなた?」 穏やかな母の声が澄子さんに尋ねる。 「それが……」 澄子さんはおずおずとお客様から預かってきた名刺を差し出した。 『グローバル・キャピタル・パートナーズ 代表取締役 片倉慎也』 「浅緋、分かる?」 浅緋はふるふるっと首を横に振った。 父の手伝いのため会社には行っていたけれど、浅緋にはたいした仕事が与えられていた訳ではない。
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