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「気にしなくていいですよ」
「あの、でもそれくらいはさせてください。本当は私が起こしたりしなくてはいけないですよね」
浅緋がフライパンのフタを開けると、綺麗に仕上がった目玉焼きが乗っている。こんがりしたベーコンも、良い香りを放っていた。
「お皿は……」
「こちらです」
片倉が浅緋の頭の上のキャビネットから、大きな白い皿を取り出す。
ふと、背中に片倉の身体が触れて浅緋は固まってしまった。
「あ、失礼……」
「いえ」
おそらくシャワーを浴びてきたのだろう、ボディソープの香りがふわりと浅緋の鼻をくすぐった。
男の方って近くに来ると、こんなにどきどきするものなのかしら?
経験のない浅緋には、それがどういうことなのか分からないのだ。
「フライ返しはこちらです」
片倉はフライパンとフライ返しを手に取った浅緋を、興味深そうに見ている。
お皿の上に、出来上がった目玉焼きを乗せるだけ。
そんなことすら、近くに片倉がいるから緊張してしまう。そんな浅緋の様子に気付いて、片倉は苦笑した。
「すみません。僕のキッチンに人がいることが珍しくて、つい、見入ってしまった」
片倉はバゲットを取り出して、慣れた様子でカットしている。
「冷蔵庫にサラダが入っているので、それも皿に乗せていただいていいですか?」
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