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ハッキリと槙野にそう言われて、改めてそうだったのだと浅緋は理解する。
父の遺言がなければ、片倉は浅緋と婚約などすることはなかったかもしれない。
あれほど素敵な人なのだ。
どうして今まで、そのことに考えが及ばなかったのか……。
片倉が優しいのも、婚約者だと思ってくれるのも、父の遺言があるから。
託された会社のことがあるから。
浅緋は、自分の血の気が引いていくのを感じた。そうして視界も暗くなったような気がする。
槙野はふと気づいたように、浅緋の顔を見た。
「なんだ、驚いたような顔をして。知っていて婚約したんだろう?」
「……はい」
「じゃあ、驚くことではないと思うが。指輪もしているんだな」
そうして槙野は、浅緋の左手を無造作に手に取る。
「ヴァンクリか。意外と地味だな。もっといいやつをねだれば良かったのに。奴ならもっと高いものでも買えるぞ」
浅緋は指輪をねだった覚えはない。
片倉が婚約するから、とプレゼントしてくれたのだ。
だから、地味とも思ったことはない。
浅緋は取られた手を引いた。
そうして、その左手薬指をきゅうっと握る。
「あ……なたがどう思おうと勝手ですけど、私には大事な指輪なんです!」
「片倉がどう言ったかは分からないけれど、俺はあなたのことは認めていない」
認められなくても、仕方ないとは思う。
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